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第三話 哀しき愛の子守歌

  -時は2000年前-  ゴゴゴゴ……と唸り声を大地に響かせながら不気味に大空を覆う雨雲。庭の花壇に咲いている花たちもどこが身構えているように見える。ガタン…と開けた窓から空を見上げて匂いを嗅いでいる兄を、ジョシュアは不思議そうな目で見つめたのだ。 ジョシュア 「……どうかした?」 ライアン 「今日は嵐になる。」 ジョシュア 「そ……そんな!」  紙袋に入りきらない程詰め込まれたパン。それを抱えるジョシュアの細い両腕に力が入った。この日のために五日間もの間、朝食のパンを我慢してきたのだ……行かない訳にはいかない。 ジョシュア 「僕、何が何でも行く!」 ライアン 「ダメだ、危険すぎるし父さんに叱られるぞ。」 ジョシュア 「ライアンは来なくていい、父さんには上手く言っておいて!」 ライアン 「ジョシュ……!」  ……まただ。わんぱく坊主の弟がまた好き勝手を始めた。その尻拭いをするのはいつだって兄の自分。自室の窓から再び外を眺める……普通の嵐ではないのが分かる、雨雲の大きさが尋常ではないからだ。クローゼットから上着を二着取り出し廊下に出ると、無造作に開けられたままになっている部屋の扉をカチャ…っと閉めた。 中央階段を降りている時、玄関の掃除をしているベンに気が付いたライアンは「少し出掛けてくる」と告げた。 ベン 「……どちらに行かれるんです?雲行きが怪しくなってきましたので今夜はお屋敷に居られた方が安全です。」 ライアン 「ちょっと行かなくてはならない場所があるんだ。遅くはならないよ、すぐに戻る。」 ベン 「……かしこまりました、どうかお気をつけて。」  心配そうに見送るベンを屋敷に残し、外へ飛び出したライアン。こんな面倒事はもうこれっきりにしてほしいものだ……そう思いながら瞼を閉じ、再び開いた彼の瞳はワインレッドのように深い赤色をしている。センスを使いながらジョシュアの足跡を探り中庭を歩き回っていると、オレンジ色に光るオーラが目に留まった。どうやらジョシュアは屋敷の隅のわき道から森の方へと入って行ったようだ。雨雲に向かい「もう少し時間をくれ…」と心の中で呟き、ライアンはガサガサと藪の中に入って行った。

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