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第三話 哀しき愛の子守歌 2

ジョシュア 「……ダメだよそっちに行っちゃ!」  ジョシュアが手渡しで与えたパンに大喜びし、崖の上ではしゃぎ回る子狐が足を踏み外さないように抱きかかえた。五日前よりも少し体が大きくなり、体重も幾らかずっしりとしたようだ。 弱っていた所を偶然見かけた、親の居ない可哀そうな子狐だった……そういう訳ではなく、ある日屋敷の重い空間から解放されたかったジョシュアが訪れた森の中、草むらで居眠りをしているとガサガサを藪から音がしたのだ。ムクっと起き上がり音のした方を警戒すると、可愛らしい子狐が無我夢中になり真っ赤なてんとう虫を追って藪から飛び出してきた。「うわぁっ!」と咄嗟に言ったジョシュアの声で我に返った子狐が驚いてその場に転倒した。どんくさい姿にクスクスと微笑むジョシュアは子狐を怖がらせなぬよう同じ視線になるよう地面に寝転んだ。 クンクン…とジョシュアが伸ばしたその指先の匂いを嗅ぎ、安心したのかペロっと小さい舌で舐めた子狐との初対面は今でも鮮明に覚えている。 ジョシュア 「よく食べるね、五日間何も口にしてなかったの?」  その食べっぷりは胃もたれを心配してしまう程で、さすがのジョシュアも一旦子狐からパンを取り上げた。艶やかな毛並みを手櫛で梳かし、耳元をひっかいてやると気持ち良さそうに片足をばたつかせる。ペットのいないターナー家で育ったジョシュアにとってはこの子狐が初めての動物とのふれあいであった。 ゴゴゴゴ…と雨雲の機嫌が悪くなってきた頃、太い木の枝の上からそんな弟のジョシュアを見守っていたライアンが「そろそろ屋敷へ戻ろう」とジョシュアに呼び掛けた。ジョシュアが子狐との別れを惜しんでいる間に、すでに大雨が降り出してしまった。雨に濡れぬよう急いで子狐を抱き上げるジョシュアの手を引き、センスで近くに雨宿りできる場所を探すライアンは、ぼやける視界の中に一ヵ所だけ暗く映る穴のような場所を確認した。運良くその中に生体反応は無いようだ、取り敢えず雨がもう少し弱まるまではこの場所で様子を見ることにした。 洞穴ほらあなに着いきジョシュアの手を離したライアンは「言わんこっちゃない」と呆れた表情で弟を見下ろした。 ジョシュア 「ごめん、ライアン……」 ライアン 「今回限りだぞ。」  ……正直、面倒だ。面倒だがそんな弟を放っては置けないのだ。この時のライアンにはまだ、そこまでこの気持ちに対して深い考えも疑問もなかった。兄として弟の面倒を見る、そう……それはどこの家庭の兄弟であっても至って自然で当然の事なのだから。

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