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第四話 守らねばならぬもの

ライアン 「……ジョシュ。」 ジョシュア 「……!」  ふと目を覚ましたジョシュアの視界には高い天井が写る。まだもう少しだけ眠りに戻りたい気持ちを振り払い、ジョシュアは頭を抱えて起き上がった。スっ…と吸い込むその空気に、覚えのある匂いが混じっている……見ていた夢がフラッシュバックし、ジョシュアは我に返った。誰も居ない部屋を見渡し、センスを使い周囲を確認するが何の気配も感じ取ることは出来なかった。よろける足取りで階段を降り廊下を歩いていると、何やら子狐達の賑わう声が客間の方から聞こえてくる。ひょこっと顔を覗かせたジョシュアは、子狐達と夕食を取っているザックとダフィーにその場に居ないクリスの居場所を尋ねたのだった。 ジョシュア 「……あぁ、良かった無事だったみたいだね。」 ザック 「どこに行ってたんだ?ここに着いたっきりすっかり姿消しちまって……クリスが心配してたぞ。」 ジョシュア 「クリスは?何で一緒じゃないの?」 ダフィー 「さっきエドワード様がお呼びです……って真っ黒のスーツ着た人が連れて行ったわよ?」 ジョシュア 「スーツ……?」 ザック 「ここの召使いの人じゃないのか?」 ジョシュア 「……ライアンの手下だ。」  目を真っ赤にして客間を出て行ったジョシュアにはいつもの彼の優しい面影は無く、ヴァンパイア独特の鋭い目をしている。彼は何も言わずに客間を後にし、クリスを追った。ガタンっ…と威勢よく父の書斎の扉を開けたがそこには誰の姿も無く、先程ジョシュアがこの部屋を出た時と何ら変わりは無い。どうやら直接奴の居る部屋へと出向かねばならないようだ。 そんな時、振り返りざまにジョシュアの視界に入ったのはボロボロな一枚の紙切れだった。……この紙切れは確か、先程クリスの血について父と話している時に、彼が後ろの書類棚から引っ張り出してきた物だ。中に何が書かれているのかと紙を広げてみたは良いが、そこには謎の文字の羅列が書かれているだけでその内容を理解することは出来なかった。「あの会話のタイミングで持ち出したという事は何かクリスの事と関係があるのかもしれない……」と、その紙が挟まっていた本を漁り出した。エドワードが座っていたのは書類棚の真ん中から少し左寄りのこの赤い分厚い本の周囲だ。煙たい葉巻の煙から目を逸らすためにこの赤い本に焦点を当てた事を覚えている。 その赤い本自体はどこか異国の言葉の辞書みたいだ……その左右の同じ様な厚さの本もまた違う国の辞典らしい。何ページかめくってみたが、自分達の使う言葉のすぐ隣にその国の言葉が記してあり、点を引いた場所にはきっとその言葉の持つ意味であろう、長い説明書きのような文が一つの言葉につき一、二行書かれている。パタン…と閉じた辞書を元の場所に戻したジョシュアがその隣の本に目をやると、そこには一冊だけ真っ黒な革で作られた本が混ざっていた。その本のタイトルには金色の文字で「愛した女」、そして下部にも同じ金の文字で「ロイド・R・マクレーン」と書かれている。きっと著者の名だろう、ざっと目を通してみたが特に面白そうな本でも無く、ジョシュアはその本を再び棚に戻した。 ……逃げ回っていても仕方が無い、いつかは向き合わねばならない事だったのだから。ジョシュアは自分にそう言い聞かせ、父の部屋を出た。 カッカッカ…と機嫌悪く革靴の音を廊下に響かせて足を進めるジョシュア、そしてある部屋の前に着くと、彼は一つ深く呼吸を整えその扉を開けた。

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