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第四話 守らねばならぬもの 4

 サインを書きなぐりペンを机に置くと、種類ごとに小分けにした書類の端をトントン…と机の上で揃えた。その書類の束をトサっと山積みになった書類の上に重ねて置き、長い時間同じ格好をしていたせいですっかり固まってしまった首を左右にひねりながらぐぅーっと伸びをする。淡々と仕事をこなしている内にもう半日も経過していたようだ。最後にまともな物を口にしたのはいつぶりだろうか、休憩のために席を立ち書類を腕に抱えた男が閉めた扉には「ダニエル・L・フォートマン」と掘られた石の名札が埋め込まれている。 軽い足取りで辿り着いたのは審判協会の本堂。仕上げた書類をその日の当番をしている者に渡し、本堂を出ようと階段を駆け降りていた時に何者かに声を掛けられ振り向いた。 リー 「……少し瘦せたんじゃないのか?」 ダニエル 「あぁ、最近ちょっと色々と立て込んでてな。今から久しぶりにちゃんとしたもん食いに行こうと思って……一緒にどうだ?」  以前にネスとバーロンに連れられて来た下町のレストラン。あれ以来この店はダニエルのお気に入りの店の一つに仲間入りしたのだ。ページをめくりながらメニューを眺めるリーにウサギ肉のステーキを勧めた所、彼もウサギの肉を口にしたことは無いらしく、物珍しそうにダニエルの指差すページを見つめたのだった。注文を終えメニューを店員に手渡し、コップを一つ手前に置き直すダニエルにリーが少し改まったように話し出した。 リー 「……ダニエル、お前の担当がグリフィン様からドーナ様に移った理由(わけ)は聞かされたか?」 ダニエル 「あぁ……レイクが内通者の容疑を掛けられてる以上、モズには置いておけないのは仕方が無いことだ。」 リー 「……もう一人の相棒が誰かはまだ知らないようだな。」 ダニエル 「モズはチームで仲良く協力し合うような部隊では無いからな。基本互いの事は一切……てか何で急にそんな話を?てか何であんたがその事知ってんだよ。」  リーからの自然な問いに釣られて返事をしたのはいいが、よく考えてみてふと疑問に思ったのだ。 リー 「先月、諜報部を辞退した。と言ってもまだちょこちょこ審判協会に顔を出しては残った仕事を片付けてはいるがな。」 ダニエル 「諜報部を辞めた……?何でまたこんな重要な時期に。」  最近ドーナの機嫌が異様に良いのだ、気付けば鼻歌さえ口ずさんでいるではないか。あれだけ楽しそうにしているのは実にリーがモズに……。 ダニエル 「……冗談だろ?」  意味有りげに眉を上げるリーの仕草で察したダニエルの腕に鳥肌が立った。リーが諜報部を辞めて再びモズに戻って来た……ただそれだけでは無い、自分とリーとが二人一組同じチームとなってドーナの護衛に就く事になったのだ。足に重りがついているように感じていた疲れが一気に吹き飛び、興奮する心が高鳴る。 リー 「よろしくな、ダニエル。」  そう言って差し伸べられた手をがっしりと握り返したダニエルは嬉しそうに向かいに座るリーを見つめて頷いた。

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