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第四話 守らねばならぬもの 5
ライアン
「ジョシュと俺には身体の関係がある。」
写真の束がクリスの手をすり抜けバサバサと音を立てながら床に落ちた。無邪気に微笑む写真の中の幼きジョシュアが、放心状態のクリスに哀しく笑って見せた。
ミイラ男
「……あんた何言ってんの?」
ライアン
「悪いが君には身を引いてもらう。」
ライアンの合図を確認した手下の者が革製のアタッシュケースをゴトっと机の上に置き、鍵を外すとクリスにその中身を見せつけた。
ミイラ男
「……何の真似だよ。」
ライアン
「詫び代だ。」
ショッキングな内容の話を打ち明けられた直後であるというのにも関わらず、次は金でこの心を動かそうとでも言うのだろうか。真っ直ぐにライアンを睨め付けるクリスの目が怒っている。
ミイラ男
「……ジョシュがあんたを嫌う理由がよく分かったよ。でも悪いけど、それはジョシュが決める事だから俺にはどうも出来やしないよ。」
言い捨てる様に席を立ち、ライアンに目で何かを訴えながら部屋を出ようとするクリスが急に固まったように立ち止まった。そんなクリスをじっと見つめるライアンの目が……怪しく赤く光っている。
ライアン
「まだ話は終わっちゃいないんだよ、少年。」
カチャ…と鍵を閉める音が響くと共にセンスが解かれた。解放されたクリスはよろけながら部屋を出ようとするが、たった今出ようとしていた扉の前には大掛かりな男が二人、まるで瞬間移動をしたかのように立往生している。
コポコポコポ…という音がして振り返ると、ライアンは先程と全く変わらぬ姿勢でポットの中のコーヒーを小さなカップへと注いでいる。それを注ぎ終わるとカップを一つクリスの席の前へと置き、もう一つの取っ手を掴み自らも一口すすった。
ライアン
「……その写真は君が持っていて構わない、だが大事にしてくれ。」
ミイラ男
「あんたが襲ったの?ジョシュのこと。」
そんな突拍子も無い質問を受けたライアンは少しだけむせ返りながら微笑んで見せた。
ライアン
「まぁ否定はしないな。君、名は何という?」
ミイラ男
「クリス。クリス・セス・レイフィールド。」
ライアン
「ふむ、中々良い名だ。」
そもそも彼はなぜすぐにセンスを解いたのだろうか?あのままにしておけば好き勝手に出来たはず。クリスの名前を聞いて感心したような表情でコーヒーをすするライアンが、やはりどうも悪人には見えないのだ。それは彼の面影がジョシュアと重なるから……ただそれだけだろうか?ジョシュアの本心を見抜くことも容易ではないが、この男はそれを遥かに上回るほどに厄介だ。
ライアン
「クリス……君とジョシュは相性が悪い。長く連れ添えばそれだけ別れがつらくなる。互いの想いが熱する前に諦めろ、それが君達のためだ。」
ミイラ男
「……まぁ少なくともあんたとジョシュアよりは相性が良いと思うけどね。」
ライアン
「性格の話をしているのでは無い……お前たちの運命の話だ。」
ミイラ男
「……運命?」
この男は間違いなくクリスが知り得ない話を知っている。釣りだろうか?ジョシュアの兄と言えどダンテのトップでもあるのだ、安易に信用すべきではない。「……さて、どうする?」もてなしのコーヒーカップを手に取ったクリスは、焦げ茶色の水面に浮かぶ自らの瞳にそう問い掛けたのだった。
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