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第四話 守らねばならぬもの 6
狼男
「大丈夫だった?怪我は?」
「平気です。」偵察から戻ったジュリアを、心配しながら木々の木陰に隠れていたウェアが迎えた。その巨大な獣は狂ったように辺りの匂いを嗅いでいたそうだ。身の丈は林檎の木の高さほどで牙に鋭く長い爪も十分に警戒すべきだという事と、他の個体を周囲に確認できなかった事からきっと単独であることを告げられたウェアはジュリアの話を聞きながら風向きを確認するために先っぽに葉の付いた小枝を真っ直ぐに持った。
狼男
「この場所じゃまずいな、匂いで居場所がバレてしまう……移動しよう。」
コクリと頷いてウェアの後を追うジュリア。つい先ほどこの屋敷に着いたばかりだというのにこの男は地形をよく把握しているものだ、土地勘の高さはさすが獣人というだけはある。グルル…と威嚇する声がすぐ近くから聞こえ、二人は足を止めた。もうあまり逃げ回っている時間は無さそうだ。
出来るだけ姿勢を低く保ち、藪の隙間からあちら側を覗き込んだ。茶色い毛皮がモゾモゾと動いているのが見て分かる、きっとあれに間違いないだろう。ジュリアにアイコンタクトで「あれか」と確認すると、彼女はコクリと頷いた。グルル…と低い声で威嚇する最中 、時よりクゥーン…と何かを案じているような弱々しい声を出す獣 。本来その声を出す時は何か強い不安や心配事がある時であるという事は、獣人のウェアには良く分かっていた。
狼男
「……様子が変だ。」
そう言ってガサっと大きな音を立て、ウェアが急に立ち上がった。これまでこちら側に気付かれぬようにと息を潜めて居たというのに一体何の真似なのか、ジュリアは戸惑った表情でウェアを見つめた。
ウェアの姿を確認した獣の威嚇する声はその場に漂う緊張感と比例して更に強まり、ジュリアに焦りを与える……ジョシュアの友人に傷一つ負わせる訳にはいかないのだ。センスで動きを止めるにしてもあの図体のでかさからしてきっと数分しかもたないであろう。その時、ウェアが素手をスっとその獣に近付けた。
ジュリア
「……!」
ウウウ……と牙を剥きだしにして目の前に立つウェアにその長く鋭い牙をこれでもかと言うほど見せつける。きっと何か策があるのだろう、ウェアはその間もピクリとも身動きせずにいる。
狼男
「……話してごらん。」
クンクン…とウェアの手の匂いを嗅ぎ、その獣は唸り声を止めた。フゥーン…クゥーン…と今にも泣き出しそうな声でウェアに何かを訴えているその獣の首の毛を撫でながら「そうかい、それはつらかったね。」とまるで獣の声とも言えないその声としっかりと会話をしているようだ。ジュリアはそんな光景に息を飲みながら、未だ藪 の中で出て行くタイミングを伺っている。ウェアがこちらを指差し獣に何かを話し掛けると、獣はそのままこちらへのそのそと歩いて来る。
狼男
「大丈夫だよジュリー、その子はママなんだ。」
ジュリア
「……ママ?」
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