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第五話 額縁からの眼差し

 ガタン…。開かれた扉の先にある兄の部屋、この部屋に足を踏み入れたのは実に何百年ぶりだろうか?部屋の中の家具や書斎は当時のまま、何も変わっていない……そして一歩進む度に懐かしいあの匂いがこの鼻を満たす。 ライアン 「……遅かったな。」  机の上に並べられた複数の写真には全て同じ人物が映されている。その写真を真剣に見比べている兄は写真を見つめたまま、部屋に入ったジョシュアにそう話し掛けた。 ジョシュア 「クリスに何かしてないだろうな?」 ライアン 「何か……とは?」  片方の眉を上げてそう聞き返す兄はどうやら確信犯なようだ、そんな些細な仕草だけでもジョシュアには嫌でも分かってしまう。それは自分達兄弟が互いを深く理解し合っているのだと決定づけているような、認めたくは無い事実でもある。何の意地だろうか、この男の近くに居るとどうも自分らしくなれないのだ。 ジョシュア 「依頼か?」  気を紛らわすために投げ掛けたその質問に、兄が答えねばならない義理は無い。なぜなら彼らターナー家の人間にとって「依頼」とはすなわち殺しの仕事と言う事だからだ。……自分ならば言わないだろう、たとえそれが家族だとしても。「馬鹿らしいことを言ってしまった」と自分に呆れながら席を立つジョシュアに、兄はこう返答した。   ライアン 「先日、パイクから連絡があってな。」 ジョシュア 「……パイクって確か、元ダンテのメンバーの?」  「あぁ。」そう短く返事をすると、ライアンは手に持っていた写真をバサっとジョシュアの方にガサツに置いた。座り直すジョシュアはその中から一枚取り上げ、写真の人物をまじまじと眺めながら首を傾げる……どの写真にも同じ人物が写っているが、見たことの無い顔だ。 ライアン 「近頃、ヴィックスの姿を目にしていないそうだ。」 ジョシュア 「それがそんなに奇妙な事なのか?そもそもあんたらリーダー格は滅多に顔を合わせないんだろ?」 ライアン 「互いの組織の近況報告と顔合わせを兼ねて四年に一度だけ会合を開いているが、誰一人としてこれまで一度も欠席などしたことが無かった。」 ジョシュア 「そんで今回ヴィックスが姿を現さなかったと。」  静かに頷く兄は、珍しく元気の無い顔をしている……きっと友人の安否が心配なのだろう。兄の事は今でも嫌いだ。……嫌いだが、彼のそんな顔を見るのはもっと嫌いなのだ。 ガタっと立ち上がり一枚だけ写真を拝借すると、ジョシュアは何も言わず、振り向きもせずにライアンの部屋を後にした。 そのままその足で出向いた先はこの巨大な屋敷の中心部に高くそびえ立つ塔の最上階、見張り塔のようなその外見からは想像しがたいその内部には美しく装飾された一部屋が隠されている。 ジョシュアが足を止めたのは、その部屋へと続く金属でできた大きな扉。ジョシュアはそのドアノブに手を伸ばしたのではなく、そっとその手を扉にかざし何かを想うように瞳を閉じたのだった。

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