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第五話 額縁からの眼差し 5

ダニエル 「お前の命など何の価値も無い、俺がこの刃先をずらさないのはただの俺の気分ってことだ。」  不審な男をようやく捕らえたのは、取引相手が男から小袋を手渡されたその瞬間であった。ダニエルの合図で双方の背後に回ると、リーは取引相手を、ダニエルはターゲットの男をそれぞれ捕らえて鎌をその首にかざしたのだ。この者達から聞き出すことは山ほどあるだろう、ここで尋問するよりもさっさと死神界に連れ帰ってジュディに引き渡すのが無難だ。「魂協会に連れて行こう。」そう言って呪文で青白い縄を男の両手に縛りつけたダニエルの手に、今度はリーが呪文で縄を付けた。 リー 「……すまない、ダニエル。」 ダニエル 「……何の真似だ?」 「ほう……仲間割れか?今日ここへ来るはずであった奴が来なかった事と、何か関係があるのかな?」  ニタっと不気味に微笑んだその男の目がフードの奥で怪しく光ってみせた。 「死神界の組織にその身を置く……表の名は何と言ったかな、カールだったか。」 ダニエル 「………!!」 リー 「………。」  黙ったまま俯くリーに鋭い視線が浴びせられたのは言うまでも無い、ダニエルが怒っているのだ。「説明してくれ。」その言葉に頷き、リーは今回のスパイの件の真相をこの時ダニエルに全て話したのだった。「まさか……」その言葉を繰り返し、拳を握るダニエルをやりきれない気持ちで見つめた。 「おやおや、そんな機密情報をこんな罪人の俺に聞かせて良かったのかな?」  囚われの身といえど極悪な罪人であることは確かだ、「これは縄を解いてもらうための材料になり得る」そう確信した男がそう言ってリーに挑発してみせたところ、話の邪魔をするなと言わんばかりにこうあしらわれた。 リー 「お前は今後一生檻から出る事は無い、聞きたくば好きなだけ聞いておけ。」 「なっ……!」 ダニエル 「いつからあいつは?入隊してからずっとスパイだったのか?」 リー 「いいや、妹が関係している。」  あの時、妹が誘拐されそれを餌に脅迫されていたカール。あれも演技だったというのか?どれが偽りでどれが事実か。はたしてリーを信じて良いものか……ケルスは?ドーナやグリフィンは? ダニエル 「俺は……誰を信じたらいいんだ?」 リー 「……ダニエル……。」  こんな歪んだ偽りだらけの世界で、それでもたった一人だけ信じている者がいる。……今きっと、その者の助けが必要なのだ。これまで忙しく過ごしてきたのだ、少しばかり休暇をもらっても罰は下らぬであろう。 ダニエル 「ちょっと席外していいか?……すぐに戻る。」 リー 「少し休んで来い、ケルスには俺から伝えておく。」  「あぁ。」そう言ったダニエルはリーと目を合わすこと無く、呪文の縄が外されるとスゥー…っとその場から消えていった。 罪人二人を呪文で監禁し、リーはそのまま魂協会へと向かったのだった。 リー 「ダニエル、すまなかった……。」  そう呟いて……。

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