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第五話 額縁からの眼差し 8

魔女 「…えぇ、もう一杯頂こうかしら。」  差し出されたワインボトルの口に自らの持つワイングラスを近付けた。コポコポと注がれるワインの波が収まるまでただじっくりとそれを見つめるリリの肩を撫でながら、男は片手で持っていたボトルをテーブルの上にゴトっと置いた。 トニー 「ババロン(うち)にはボスが必要だ、何があろうと連れ帰る。向こうの組織とは以前に取引したことがあってな、言うほど大きな組織でもなければ人員が特別優秀って訳でもない。ボスが何故そこまであの組織に執着するのかが理解出来ん。」 魔女 「ほらあの…ダンテだっけ?のお仲間さん達に正直に話して手助けしてもらえばいいじゃない、昔の友人が離れていっちゃうって言うんじゃ喜んで手を貸してくれると思うわよ。」 トニー 「パイクさんにはもう既に知らせてあるがメッドさんとショーンさんはライアンさんと仲が良いんだ、事が二人に知れればライアンさんにもすぐに伝わるはずだ。」 魔女 「…ライアンってジョシュのお兄さんでしょ?何か知られちゃマズイ事なの?」 トニー 「当たり前だ、ヴィックスさんが勧誘されてるのはあの御方の傘下の組織なんだから。」  その者のことに話が移った途端、トニーの声に勢いが無くなった。何か引っ掛かる回りくどい言い回しに痺れを切らしたリリは単刀直入に聞いてみることにしたのだ。 魔女 「……あの御方ってのは?」  答えようか迷ったのだろう、こちらを見つめていたその視線を机の上へと下げてコースターをひっくり返したトニーはこう言った。 トニー 「……ライアンさんの実父、ロイド様だ。」 魔女 「ジョシュとは異父兄弟ってこと?」 トニー 「あぁ、そうだ。ロイド様の不貞に深く傷ついた御夫人を見捨てられず、エドワード様が御夫人と駆け落ちされたんだ。」 魔女 「……まぁ何てロマンチック!」  まるで大好物なロマンス小説の様な話の展開に、ワインを飲むことも忘れて身を乗り出しながらトニーの話を聞いているリリ。怪しく(きら)めく紫色の瞳がより一層に不気味な魔女の雰囲気を醸し出している。 トニー 「ライアンさんはまだ赤子だったらしいから、今からどれくらいの時を遡るのかな……」

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