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第六話 ここから先は、後戻りは出来ない 5

「ボス、便りが届いています。」  手下から渡された手紙の差出人にはMedd(メッド)と書かれている。開封した封筒の中の便箋を広げ、声には出さずに静かにその手紙の内容を読み上げた。 ライアン 「今晩来客が来る、もてなす準備をしておけ。」  その命令を聞いた部下達は準備のため次々とライアンの自室を出て行った。残った仕事を手早く片付け書類を引き出しにしまうと、メッドからの手紙も同じく書類の一番上に重ねて引き出しを閉めた。何か考え事をするかのように両手を机の上で組み、その上に顎をのせたライアンはそのままの体勢である一点を見つめてる。そしてスっと立ち上がり窓際に行き、窓枠に軽く腰を掛けて先程見た庭先の光景を思い返しながら静かにコーヒーをすすった。超大型組織ダンテのトップとして一日にやらねばならない事は無限にあり、そのほとんどが片付けきれずに翌日に持ち越される。トップと言えど呑気に派手な女を嗜みながらウォッカをすすっている暇など無く、組織を維持するためにこの両手はいつも仕事で塞がっているのが現状だ。そんな日々の中でも時より思い出す弟と過ごした幼少期の記憶がこの疲れ果てた体と脳を癒していた、それが今となってはあのミイラの少年のお陰でそんな僅かな癒しさえもこの手を離れていこうとしているではないか。「ふぅ…。」と小さく溜め息をつき、ライアンは再びコーヒーカップを口に当てた。 「ボス、ディナーのメインのステーキは何にしましょう?」  答えを聞き次第すぐに調理場に戻りたいのだろう、ライアンの右手であるディーンは扉の取っ手に手を置いたままの状態でこちらにそう問い掛けたのだ。 ライアン 「…あいつは確か赤身よりもリブが好きだったはずだ。」 「かしこまりました。ジョシュア坊ちゃんは野菜とかの方が喜びますかね?」 ライアン 「それをそのままジョシュに聞かせてやりたいな。」  ディーンが真面目に聞いた質問の内容が可笑しくて、そう言って微笑んだライアンは続けてこう言った。 ライアン 「ジョシュは鮮血を飲むのが嫌いなだけでベジタリアンな訳ではない。ステーキは好物なはずだ、上手く焼いて出してやれ。」 「承知しました、それと…坊ちゃんには連れの者達がいるようですがそちらはどうなさるおつもりで?」  ジョシュアの連れの者達とはウェアやザック達のことを指している。組織の事についての大事な話ならば、食事の後にあの者を自室に招いてプライベートですれば良いだけの話。久々に屋敷が賑やかなのだ、数は多い方が賑わうであろう。相変わらず静かにコーヒーをすすりながら、ライアンはディーンにこう命じたのだった。 ライアン 「招いてやれ。」

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