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第六話 ここから先は、後戻りは出来ない 6

 「ボスはお忙しいようで。」明らかにからかっている口調でそう言いながら部屋に入ってきたのは父のエドワードだ。シュボっと慣れた手つきで葉巻に火を付けると、パッパッパ…と煙をふかした。 ライアン 「ここは禁煙ルームなのだが。」 エドワード 「喫煙所と書いてあったぞ。」 ライアン 「嘘をつくな。」  早速仕事に戻り書類に記載されている数字を確かめているライアンは戸棚の端に置いてあった灰皿を掴むと、ソファーに座り勝手に他人(ひと)の部屋でくつろいでいる父に見向かってフリスビーのようにそれを投げつけた。そして突拍子も無く投げつけられた灰皿をパシっとキャッチし、その中に灰をトントン…と落とすエドワードが言った。 エドワード 「なんだお前も吸ってるじゃないか。」 ライアン 「それは来客と非常識な父親用だ。」  そんな皮肉な冗談が面白かったらしく、ハハハっと声をあげて笑うエドワード。そんな彼にライアンは今夜の宴の事と、もう一つある話を持ち掛けたのだった。 ライアン 「あからさまな挑発には乗るべきだと思うか?」 エドワード 「…この灰皿の事か?」 ライアン 「真面目な話をしているんだ。」  いつものように冗談でそう返す父にこの時ばかりは真剣な目つきで返答をしてみせたライアンは、メッドからの手紙を見せた。エドワードはその文章を時より省略しながら声に出して読み始めた。 エドワード 「この手紙が君の元に届く頃にはもう既に奴はそちらに向かっているだろう。翌年の会合まで気長に待っている時間は無さそうなんだ、ヴィックスの様子が明らかにおかしいのは我々全員が把握していたが、つい先日ショーンの手下がある手掛かりを掴んだとショーンから直接報告を受けた次第だ。こちらは私情が片付き次第すぐにそちらに出向こうと思っている。その時はショーンも連れて行くから、ゲストルームの用意をしておいてくれ。近い内に会おう、メッド。」 ライアン 「親父、もうそろそろこの辺りで本当の事を話してくれないか?」 エドワード 「……。」  読み終えた手紙を折り畳み、ライアンに手渡して返したエドワードは未だに一言も発していない。彼の中で色々と葛藤があるのだろう、これまで全てを受け止めて自分やジョシュアのことを守ってくれていた父には到底頭が上がらない。そして自分達が大人になった今、これからは自分で自分の面倒を見なければならないのだ。いつまでも親に甘えている訳にはいかない、ライアンはその真実を受け止めなければならない、どんなに残酷な現実であろうとそれがこの身に授けられた運命なのだから。 「どこから話せばいいのやら…」そう切り出した父はやれやれ…と一度消した葉巻に再び火を付けたのだった。

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