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第六話 ここから先は、後戻りは出来ない 7

 「お待ちしておりました。お坊ちゃま、クリス様、お帰りなさいませ。」ベンがそう歓迎し、コートを受け取った。先に行くジョシュアの後ろにクリスがついて行き、その後ろに続いて歩く者がずっと付けたままでいた皮手袋をこの時外した。その左手にはダンテのシンボル、そして右手には別のシンボルのタトゥーが刻まれていて、客間のテーブルの上にある一定の感覚を空けて置かれたロウソクの灯りに反射して、耳からぶら下がるサファイアがゆらりゆらりと輝いている。 ベン 「ソフィー様はただ今お子様達と入浴中です、先にお召し上がりくださいと仰っておりました。」 ライアン 「そうか、では我々だけで先に頂こう。ジュリー、子供達が風邪をひかぬよう彼らの部屋を暖めておいてやれ。」 ジュリア 「かしこまりました。」 ジョシュア 「ジュリー、あの獣の子供は見つかった?ウェアはどうしたの?」 ジュリア 「えぇ、あの先の洞穴で居眠りをしている子供を発見し、その後母親たちを見送りました。ウェア様は少しお疲れの様子でしたので、お部屋で休まれているのかと。」  「そっか。」とジョシュアは一安心してクリスにウインクをした。「それで、今回ボスは連れてこなかったの?」先程ノースバレーのバーで出会った者にそう尋ねたジョシュアに、彼女は「これは参ったね。」と困った表情で返した。 ジョシュア 「サウスラピッズって確かパイクが居る所だろ?何か急用みたいだし、パイク本人とライアン、トップ同士で話し合うべきなんじゃないの?これじゃ伝言ゲームじゃない。」  水の入ったグラスを手に取るとその者はふふふっと怪しげにジョシュアに微笑みかけた。まだジョシュアがこの屋敷に居た頃、そしてまだダンテのメンバー五人全員がダンテとして席を置いていた頃に、幾度かこの屋敷で開かれたパーティーに集まったメンバー達の顔を見たことがあった。他の者達の顔を鮮明に思い出すことはできないが、パイクだけはしっかりと覚えている。なぜなら彼の図体はライアンや他のメンバー達とは比べ物にならない程で、その分厚い筋肉で覆われた肩は異常な程大きかったのだから。 ライアン 「間抜けな弟に何か言ってやれ、パイク。」 ジョシュア 「……?」  

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