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第六話 ここから先は、後戻りは出来ない 8

パイク 「さっきバーで会った時には出身地を聞かれて驚いたよ、昔に何度かこのお屋敷で君に会ってるんだけど…覚えてないみたいだね。」 ジョシュア 「いやちゃんと覚えてるよ、でも間違いなくあんたでは無いな。」 パイク 「君が一体どこぞの私の分身に出会ったのかは知れぬが、一応私が本物のパイクだ。」 ジョシュア 「んな訳…だってパイクってあのゴリゴリのマッスル男だろ?」  その言葉を聞いたパイクがハハハっと笑い出した。呆れて首を横に振るライアンと困惑した様子でいるジョシュアを前に、クリスは状況を理解できずにいる。 パイク 「それはきっと…というか間違いなくジルのことだね。彼は私の護衛でいつも傍にいたから多分君が見たのは私の隣にいるジルで、あの図体のせいで君からは私のことが見えなかったんだろうね。」  「なるほど…。」と納得したように頷いているジョシュアに構わず、ライアンは食後に自室に来て欲しいとパイクに告げた上でメッドからの手紙の事を伝えた。初めにヴィックスの異変に気が付いたのはパイクで、それをライアンに言うべきかどうかは迷ったが、先にショーンとメッドにその事について相談すると彼らはライアンに直接会って話すべきだろうという流れになったそうだ。近頃仕事が急に忙しくなったメッドに代わり、ショーンが組織総出でしばらくの間ババロンの行動を監視していた時であった、ヴィックスがある組織と交流をしているのをその目で確認したのだ。 この場にクリスと言う部外者が居ることをすっかり忘れ、互いに組織の話題を持ち出すライアンとパイク。そんな中でクリスが言った言葉に二人は口を塞いだ。 ミイラ男 「ババロンと言えば、リリは大丈夫かな?あのトニーって奴だけは俺…許さない。」 パイク 「君、なぜトニーの名を知っているんだい?」 ジョシュア 「俺らは以前にモルナードっていう街でトニーと接触してるんだ。その時にクリスは…」 ライアン 「何があったんだ?」  クリスの心の傷をぶり返したくは無いとそう思ったジョシュアは言葉を濁らせた。気を使って話を変えようとするジョシュアに代わってクリス自身がこう言った。 ミイラ男 「襲われたんだよ俺、トニーに。」  驚いた表情でクリスを見るライアンとパイクであったが、その目はクリスを蔑んでいる様には決して見えず、むしろクリスを心配するような眼差しでこちらを見つめている。「大丈夫だったかい?」とパイクがクリスの肩をさすり、「うん。」と頷いたクリスの包帯に巻かれた頭を彼女は優しく撫でた。 その時扉が開き、エドワードが部屋に入ると同時にすぐさま立ち上がり「お無沙汰しております、旦那様。」とパイクは深く頭を下げて挨拶をした。エドワードが「元気そうで何よりだ。」と彼女に微笑み掛けて着席すると、屋敷の主が揃った所で一同はグラスを高くかかげ乾杯をした。たった今この場に到着したばかりで先程までの会話を聞いていなかったはずのエドワードが、驚くようなことを口にしたのだった。 エドワード 「ライアン、パイク、そして残りの二人にも伝えておきなさい。ポーキュラムをここに復活させる。お前達の母さんの顔を見つめていて思ったんだ、お前達を守っているだけではもう、お前達を守り切れんとな。……ジョシュア。」 ジョシュア 「……?」 エドワード 「立派な大人になった今、お前もポーキュラムの一人として我々に手を貸してはくれんか?答えは今すぐに出さんで良いからじっくり考えなさい。」  ポーキュラム…それはもう、とうの昔にエドワードが畳んでしまった組織の名前。ライアンが独立してパイクやショーン達を率いりダンテという組織を作る前の、ライアンが初めて殺し屋として父の背中を見習い始めた場所でもある。それをなぜ父は今になってポーキュラムを復活させようと言うのか、ライアンもパイクも、こればかりには拍子を突かれて唖然としたままでいる。

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