5 / 12

第5話

季節に合わせた創作料理のお店に入ると 社長の同級生の女将さんが いつもさり気ない気配りで部屋へと通してくださる ディーンさんは座るなり 話を進めて説得をしようとする そこは、先に話をすると せっかくのお料理を楽しめなくなるし 食事をしながらまずは仲良くなって 心を開放させておきたいとも思いその場を 上手く仕切らせてもらうことに成功した あきはちょっとした衝撃で 折れてしまうんじゃないかと思うくらい 細くて繊細なシルエットをしている でも本人の「食べるのが大好きだ」という言葉通り ずっと笑顔で本当に幸せそうに 美味しい美味しいと料理を堪能してくれていた 「あきは大学で何を専攻してるの?」 「子どもの頃から深海魚が好きで 海洋生物学を学んでるんです。今四年生だけど もっと研究したいこともあるから 大学院に行こうって思ってます 魚、見るのも食べるのも大好きなんですよね〜笑笑」 と目の前ののどぐろの身を キレイに取りながら 嬉しそうに話してくれる きっと子どもの頃からみんなに大切にされて 育ってきたんだろうなぁ と感じさる彼には 10歳離れたお姉さんがいるそうだ たわいもない会話から ちょっと甘えん坊で天然な一面が 見え隠れする、あきの人柄は 誰からも好かれることは間違いないだろうなぁ などと思った だいたい料理が終わったところで 再び口を開く 「ところでさぁ、あき… 今どうして一緒にランチしてるのか そろそろ話してもいい?」 「あっ… そうですよね。 ……お願いします」 急に緊張をした声色に変わる 「あきに声をかけたディーンさんはね タイの脚本家で、大ヒットドラマを沢山作ってる人なんだよね。」 「へぇー。そうなんですね! え? 翔さん、タイのドラマに出るんですかぁ?」 「ちょっと違うかな。 ディーンさんが今度日本で脚本、演出を 手掛けてくださることになったんだよ。 それで、俺が主演をさせて貰うんだけど、」 「えー、見ます見ます! わぁー、モデルとかCMだけじゃなくって ドラマもするんですね!」 キラキラした目で話に被せてくる 「まぁ、どっちかっていうと 俺の本業は今までも俳優でドラマ出てるんだけどね 笑笑」 色んな反応が面白くて 敢えてそういってみる すると この世の終わりのような顔で 目に涙を溜めながら言う 「翔さんっっ…… 僕… あの…… とっても失礼なことを… ごめんなさいっ… どうしよぉ…」 「笑笑 いいよいいよ 気にしないで! そのうち嫌でもわかって貰うからさ 笑笑」 「そのうちって…? ドラマって1回逃すとなんか嫌で… でも録画の仕方もよくわかんないし… だから見ないっていうかぁ… あ、言い訳じゃないですよ? ん?言い訳かぁ…」 しゅん と言葉が聞こえてきそうなほど とても表情がわかりやすい子だ 「じゃぁ本題にはいるね。 この前、そのドラマの相手役のオーディションを させて貰ったんだよね。 だけどなかなかディーンさんのお眼鏡に叶う子がいなくて 俺もピンとくる子がいなかったんだぁ、さっきまでは」 「…??」 あきはとっても不思議そうな表情で こっちを見つめている 「あき、さっきディーンさんと 横断歩道ですれ違っただろ? それでディーンさんは信号のところで あきに声をかけた。 言葉がわからなかったから手を引っ張って 俺のところ連れてきたんだ。 意味わかる?」 「んーとぉ… …?」 「わからない? あき、あきはディーンさんのお眼鏡に叶った とっても貴重な子なの! 俺もちょっとあきと話してピンときたよ この子しかいないって あき、ディーンさんのドラマ 俺の相手役になって欲しいんだ ダメ…かなぁ?」 「えっとぉ… ドラマ? 翔さんの…相手役…? えーーーーーー」 びっくりしたかと思ったら きょとんとして 小動物のような動きがなんとも可愛い 「驚いた?」 「…っはい! よく意味が… なんで僕が…? 魚好きの大学生役とかですか?」 「笑笑 ちょっと違うかな あきの色白で繊細な感じ 自然な茶色いサラサラの髪に 茶色くてくりくりの大きな目 高すぎず程よい高さの鼻に 綺麗なくちびる そして俺と15センチちょっとの身長差 あきの全てがディーンさんのイメージする キャラクターそのものだったんだよ」 「えっ 僕昔からどっちかっていうと 女の子に間違えられたりして 自分の見た目はコンプレックスっていうか… それにドラマって… 全くの未経験だし そんな素質ないし、世間に出ていいタイプじゃ ありません…」 「自分をそんな風に言ったらダメ! 何百人もの人がオーディションに来てくれても そこには見つけられなかった逸材なんだよ! あき、あきはさぁ、見た目だけじゃないよ 話してても表情がコロコロ変わるし その全てが魅力的なんだ 演者には絶対に向いてるよ この世界で8年やってる俺が言うんだから ちょっとは信じてよ 俺さぁ、あきと少し喋っただけで確信したんだ この子となら素敵な作品が作れるって」 ディーンさんも 相手に言葉が伝わるかどうかは関係なく 必死に言葉で訴えている 「僕に…本当に僕にできるのかなぁ…」 「できるかできないかじゃなく 俺と一緒のやって欲しいんだ! 俺もBLって言われてもはじめてだし戸惑ってるよ 日本の先駆けになれるのかって… でも、タイの俳優さん達から学んだんだ 大切なのは相手を尊重して大切にしあって 分かりあって、時にぶつかりあっても お互いを信頼しながら作りあげるのが大切だって それをあきとやりたい 俺の直感だけど、あきとならできるって思う 俺がしっかりサポートするからさ!」 「あのぉ BLって男性同士のあのBLですか? 日本の先駆け?」 「あぁ、ごめん まだ説明してなかったね… 知ってるの?」 「はい! お姉ちゃんが BLマンガ大好きで! えっ…でもなかなかすごい内容だったような… あっ… でもそれ… 相手役って翔さんの恋人役ってことですか?」 「話が早い! そう、そういうこと! と言っても俺もBLを知ってまだ1週間 笑笑 日本にはまだジェンダーレスが浸透してないでしょ? だからその先駆けとして ディーンさんのBL作品を通して 日本が普通に受け入れられる国になるようにしたいんだ それで…俺の恋人はいや?」 あきの顔が見る見る真っ赤になる 「嫌なんてそんなわけ… えっとぉ… あのぉ…」 「ん? どうしたの?」 「僕、その… 男性とというか 恋愛ていうか…その… お恥ずかしながら…経験なくって… 現実に…」 可愛い… 「あき、実はさぁ俺なんて 30にもなってもリアルな体験ないんだよ ドラマでは色々演じてるけどね 一緒だね。2人だけの秘密だよ」 あきにだけ聞こえるように 耳元で囁くと 赤い顔をもっと真っ赤にして 首を縦に振って何度も頷いた しばらく黙って見守っていたディーンさんが口を開く 「あきくん どう? やってみない? 断りの返事は要らないよ 笑笑 翔とも仲良くなったみたいだし!」 「あの… 夢じゃないかなぁって不安だし… もう少しだけ考えたいし… 一応、家の人にも相談してもいいですか?」 「もちろんいいよ! いい返事待ってるね」 あきと連絡先を交換することに成功した 別れ際 あきを抱き寄せてハグをした 「また必ず会えるって信じてる」 「…はぃ」 小さな声でそう答える あきの体はとても細く 守ってあげたいと思った

ともだちにシェアしよう!