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夢の舞台へ③

 ◇◇  ジョッキについた水滴がテーブルを濡らす。    大学近くの居酒屋で行われている親睦会。  貸し切られた座敷の隅で気配を消した僕は、ちびちびとハイボールを飲みながら枝豆を黙々と食べることに専念している。それが今の僕に課せられた唯一の仕事だった。  ゼミ生みんなの親睦を深める会だからと、席順をくじで決めることになるなんて思ってもいなかった。    居酒屋に到着して早々、ほら引いてと差し出されたくじの入った箱を前にして、僕の顔がサーッと絶望に染まったことは想像に容易いだろう。  こういう時、大抵僕はハズレくじをひく。  嫌な予感は当たるもので、奏とは離れた席になってしまった。  「大丈夫か?」  「…………なんとか」  心配そうな表情を隠そうともせず、奏が尋ねてくる。    たぶん、こいつ、今ここで僕が無理だって言ったら、幹事の宇田(うだ)に相談して席を変えてもらうんだろうな。  そうなることが目に見えて予想できたから、ギギギとぎこちなく首を横に振った。  奏も僕に構ってばかりじゃなく、たまには他の人とも交流するべきだと思ったから。    産まれてからずっと、奏が隣にいた。  だけど、いつまでも奏に面倒を見てもらうわけにはいかない。  僕も奏も、いい加減外の世界を知るべきだ。    今日はその第一歩を踏み出すいい機会なんだ。  そう思ったのはいいものの、現状は違う。  今すぐにでもこの地獄から逃げ出したい、あるのはその一心だった。

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