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先生

「ああ、君が後天覚醒したオメガの子か・・・。じゃあ、今から癒着してる部分の切除するから、部分麻酔するから、この台に上がって。」 「は・・はい。」 カーテンで仕切られた、椅子型のそれは足をM字に開き固定するものでちゃんとした医療ベッドだが・・・、βの男の子として今まで生きていた彼には初めて見る未知のモノだったろう。 それも、自分でも見た事も触った事もない場所をこれから、弄られるわけだしな。 後天オメガの男の子は子宮に繋がる入り口が癒着している為、簡単な手術で癒着した部分を切り開き、正常な動きができる様に刺激を与える。今後、ヒートを起こした時に怪我をしない為でもあるけど・・・・。その行為は精神的にβとして生きていた彼には想像以上にキツイ行為だっただろう。 手術後最初の検診では、彼の診察を何度も中断する事になった。 刺激を与えていく事で、子宮が成長しαの子供を妊娠してできる様に変化していく。触診はその為の行為でしかない。けれども、彼にはその行為自体に嫌悪を感じてしまっていた。 そんな中、先月。ついに彼は国の基準値を満たし、ブリーディングリストに載った。 その診断をしたのは僕。って言っても、血液検査の結果と子宮の状態が基準クリアしたのだから仕方がない。それでも、今まで彼が望む限り発情を抑える抑制剤を処方してあげてた。 Ωってだけで、性の道具にされるのは医者としても・・・同じ、後天Ωとしても嫌だった・・・。 自分が、そうだと解ったのは、高校1年の夏 貧血が酷く、病院で血液検査をして解った。自分がΩだと解った時の親の顔は忘れられなかった。折角、入った進学校もαの生徒が多い事を理由に転校する事になり、仲の良かった両親達も自分のことで喧嘩が絶えなくなった。それでも、両親達と離れる事なく、β地区で暮らしていたが・・・ 高校2年に上がる頃、両親は離婚をした。 その時、部活中にヒートを起こしてしまった。その状況は、地獄図だった。  心でどんなに拒否しても、身体はαを求めた。その結果、その場にいたαの生徒に僕は輪姦(まわ)された。けれど・・・、僕がΩで向こうはα。事故として処理され、僕は2週間の停学になった。幸い、ネックガードのお陰で番になる事は無かったけど、その時の1人の子供の妊娠が分かったのは、僕の停学が明けた日だった。その日も、貧血で倒れて病院へ行くと、初期の妊娠が解った。 「君、妊娠してるね〜。カルテ見ると、学校で事故ったんだよね? どうするの? 被害者のαの子達の人生をさ〜。 君、責任取れるのかな? 血液検査で、被害者のαの子を特定することも出来るけど・・・。やる覚悟ある?」 「・・・、検査してください。」 「あっそ。 じゃあ、これにサインして。」 採血の同意書には、結果が分かっても婚姻を強要しない事等のあらゆる権利の放棄が書かれていた。そこには、αの子供が生まれた場合の権利の放棄も盛り込まれていた。 「先生、これ・・・。子供がいるのは僕なんですよ? なのに・・・何で、こんなαばかりの・・・。」 「そりゃ、Ωなんだから、仕方ないだろ。君たちは、α様のお陰で、検査費用も全部無料なんだから〜。本当、君はもっと感謝するべきだと思うけど? それこそα様に、求められたら、その綺麗な顔と穴できっちり満足させてあげないとダメだよ? 大体、君は触診の最中もグズグズ泣き出すわ、嘔吐に失神するわで、面倒なんだよね。処女じゃあるまいし。 少しは、自分で濡らしてくるとかして来れないわけ? 一度に何人も相手できたんだろ? しかも妊娠できるぐらい成熟してんだしさぁ。 まぁ色も綺麗なピンクだし、何度も指を締め付けるくらい、締まりもいいからきっとそのα様達は喜んだんじゃない? 私も、10年若けりゃ是非お願いしたいくらいだよ。」 ニヤニヤと卑下た笑いを浮かべていた医者の横っ面を気がついたたら殴り飛ばしていた。 パン!!!!!!!! 「な! お前!! 何しやがるんだ!!!! 」 病院を飛び出していた。 走って走って、辿り着いたのは、Ω地区の小さなクリニックだった。 そしてそのまま、倒れてしまった。 「ああ、目が覚めたかい?」 金髪の綺麗な男が自分を見下ろしていた。タートルネックの下から、見え隠れしたネックガードが、この男がΩだと解った。 「こ・・ここは?」 「君の様な子の為のクリニックだよ。」 ニッコリと笑いながら、点滴を交換する。 「君、妊娠してるけど・・・合意でかな? 見た感じまだ、学生だよね? それに、番もいないみたいだけど・・・・。」 ネックガードの付いている首元を指さされて、思わず恥ずかしくなり隠してしまう。 「・・・。僕、帰らないと・・・!!」 交換されている点滴を見て、思わず起き上がろうとするが、すぐにベットに戻される。 「どこに? さっき、君の家に連絡したら、君の事を政府施設に入れるって親御さんは言っていたよ?」 「!! 連絡したんですか!!」 「そりゃね、身元不明の子供・・・それも妊娠Ωなんて厄介事でしかないからね。・・・で、どうするの?」 「・・・・・。」 掛け布団を握りしめる手が震える。 「ここにいればいい。点滴は、栄養剤だから安心して良いよ。」 優しく、頭を撫でながらその医者は微笑んだ。 「けど・・・施設にって。」 「ここも、政府の機関施設だから、安心していいよ。僕は、カイル。よろしくね。」 「・・・僕は・・・。」 そういって、再度体を起こそうとしたが、そのまま寝かされる。 「ああ、点滴が終わったらでいいよ。ちゃんと君の今後とお腹の子の事、話そうね。」 「・・・はい。」 「とりあえず、今はゆっくり休みなさい。」 それが僕の先生との出会いだった。この先生との出会いのおかげで、自分の進む道が出来た。 だからという訳ではないが・・・、同じ後天性オメガの彼が、なんだか放っておけなかった。 できれば、彼らには幸せになって欲しい。

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