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東堂の過去(2)

高校は祖父や父親が勧めた学校では無く、βの通う普通の学校にした。そこなら自分のバースに囚われなくて済むと思った。けれど、αと分かると、βの人間の方が浅ましい程に、媚びを売り、成功のお溢れをもらおうと、必死になってとりいってきた。Ωを人とも思わない発言をするのも多く、授業中以外クラスには近寄らなくなった。 人を避け、辿り着いた廊下の先に、図書室があった。そこにあいつは居た。 「………こんな所に、図書室? 」 普段、授業が終わるとすぐ下校していたせいで、校内のどこに何があるのか知らなかった。 たまたま、辿り着いた図書室のドアを開けると、普段から利用する生徒が少ないのか、人の気配も無く静かだった。 意外と揃えてんだな……。 図書室の中を見て回ると、CDも貸し出していた。 ふと、目に入ったポップのCDを1枚手に取った。 [目を閉じればソコは何もない海] ソコ・・・ 底・・・? ガタッ!! 「!!」 思わず本棚の奥から、聞こえた物音に手にCDを持ったまま、その場から逃げ出してしまった。 ヒーリングミュージック?? 持ってきたCDを再生すると、さまざまな波の音。 その音の向こうに、景色が見えた気がした・・・ その夜は、ただ、波の音だけがするだけのCDを共に、暗い部屋で目を閉じた 「……確かに、底の無い海……」 暗い海を漂う感覚 あのポップの文字が頭に浮かぶ。 あれを書いた奴もこの海を感じたのか? どんな奴が・・・?  その日、初めて母の姿に怯える事なく、朝まで熟睡できた。 今でも、そのCDは図書室に返せずに持っていた。 尊といると、心が満たされていく気がする。あの夜を思い出すだけで、体は熱くなり 何度、あの白い首筋に噛みつきたいと思ったか・・・。 けれど、その度に頭の中で警鐘が鳴る。 本当にいいのか?と・・・ 衝動で噛んで、もし、尊が運命の相手でなければ、お互いが辛い思いをする。 母の様な惨めな思いはしたくない。 それに、噛まなくても尊と触れ合える事に、今は心が満たされている。 そう、満たされている。 たとえ、発情した尊から「噛んでほしい」と言われる事がなくても・・・・ オレは、それでいい。 でも、もし・・・・ 尊に、運命のαが現れたら?  オレは、耐えられるのか? あの母のようなαにならないといえるのか? そんな考えが、幸せな分だけ重く心に溜まっていった。 「おーい、東堂? どうかしたのか?」 東堂の目の前で掌を動かしながら、尊が顔を覗き込む。 そのまま、尊を腕の中に納めて額にキスをする。 唇が触れるくらいのキスでも尊は恥ずかしそうに頬を赤らめるが、嫌がる事は一度もなかった。 それが、東堂にはたまらなく愛しく映った。 「どうもしないよ。 早く、尊の中に入りたいって思っただけだよ。」 そう耳元で、囁けば首元まで真っ赤に染りながら、腕の中で「オレも」と返事を返してくれる。 「ちょ・・東堂。」 腕の中で、少し息苦しそうに見上げてくる尊のおでこにキスをする。 「・・・コーヒー、テイクアウトでも良い?」 尊が頷くと、ポケットから車のキーを取り出し手渡した。 「車で待ってて。」 そう言って、今度は頬にキスをして店の中へ東堂が入って行った。 反対車線に停めてある、黒の四駆。東堂のイメージ通りだと思った。 けれど、運転はイメージとは違い。超安全運転だった。  いつも気を抜くとすぐに、尊は寝落ちしてしまっていた。 助手席に座ると、店の中の東堂と目が合った。 店内の東堂の口元が少し上った気がした。

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