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モヤモヤ 2
顔に、キラキラと朝日が射す
「・・・ん、東堂・・・?」
自分の右側を探すように、探るがそこには尊が探していた男の姿はなかった。
ゆっくりと、体を起こしダイニングの方へいくと、鼻腔をくすぐる香りがした。
「・・・東堂?」
キッチンの人物へ声をかけると、優しい感じの中年女性が振り向いた。
「おはようございます。 私、東堂様にお支えしている家政婦の市原と申します。東堂様は、急な仕事が入ったとの事で、こちらを宮嶋様にお預かりしております。」
手渡されたのは、メッセージカードだった。
『尊が起きるまで傍に入れなくて悪い。 急な仕事で病院についてやれなくて、ごめん。埋め合わせは今夜、連絡する! 』
自分の字よりも、力強く、少し斜め右上がりに書かれた字。
あれは高校の時
クラス委員の手伝いで見た東堂のノート。
「わりーな、宮嶋にまで手伝って貰って。」
「別に、これぐらい構わないよ。」
「あの先生のドジには参るよなぁ・・・。けど、手伝ってもらえて良かったわ〜。オレだけじゃ、別のクラスのやつ分からないからさ。」
高校の化学教師は、ドジで有名な先生だった。
その先生が、全クラスの提出したノートを採点の時に混ぜてしまい、たまたま居合わせたクラス委員と一緒に仕分ける作業をしたのだった。
「ん? これ、名前書いてないけど・・・誰のかわかる?」
手に取ってたノートをパラパラと捲っていく。
右上がりの字で、書かれたノートはきちんと内容がまとめられていた。
「あ、これ、この科学式だったんだ。」
「え? あ、ああ。それ、難しかったよな。って・・・それ、あー・・・東堂高雅のだな。 この右上がりでちょっと雑でさ、αなのに字は汚いのか!!?! って思って覚えちゃったんだけど・・・って、東堂には言わないでくれよ!?」
少し慌てて、口止めをしてくる委員長にびっくりしてしまう。
「僕が? αの彼と接点なんて僕にはないのに?」
そう。彼があそこで寝てるのを知っているくらいの接点・・・。
「あはは、確かに。オレも、同じクラスなだけかな。オレらβとは別次元様だしな。」
別次元
その言葉に、チクリと胸が痛んだのを誤魔化すように、適当に返事をしながら手に持ってたノートをパラパラめくった。
「けど、このノートは参考にしたいな・・・・。」
そう・・・あの時のノートと同じ字。
あのノートは、見せてもらう事はできなかったけど・・・
「・・・宮嶋様? どうかされましたか?」
メッセージカードを読んだ尊へ、心配そうに市原が声をかけると慌てて、笑顔を見せるとホッとした様子を見せた。
「え・・・あ、何でもないです。それより、いい匂いですね。」
「ええ、宮嶋様は、朝は和食の方がお好きと、東堂様よりお聞きましたので、本日は五穀米とお味噌汁と・・・・」
「ありがとうございます。そしたら、支度してきます。」
「はい。ご用意しておきますね。」
顔を洗って、ダイニングに戻るとテーブルには朝食が並べられていた。
昨日の夜景とは違い、朝日と共に遠くに山が見えた。
「・・・綺麗。」
思わず、そう口にした尊に、市原が優しく微笑みながらお味噌汁の入ったお椀をテーブルに置いた。
「今度は東堂様とごゆっくり見れますよ。」
「そう・・ですかね?」
「ええ。大丈夫ですよ。」
「・・・ありがとうございます。」
「それでは、私は一旦、失礼させて戴きますので、食べ終わった食器はそのままにしておいて頂ければ良いので、どうぞごゆっくりとお過ごしくださいませ。」
「え・・。あ、はい。朝食ありがとうございます。」
尊のその言葉に一瞬、驚いた様な顔をしたがすぐにニッコリと微笑んで、市原は部屋を出て行った。
・・・なんか、市原さんってお母さんって感じするなぁ。
母が生きていたら、あんな感じだったのかな?
何となく、そんな風に思ってしまったのは、彼女が初めて会った気がしなかったからかもしれない。
pppp
テーブルの上で、充電されていた携帯のアラームが鳴る
今日は、血液検査で病院に一緒に行く予定だった。
といっても、血液検査だけだからついてこなくて良いと言ったが東堂はついて来るつもりだったらしい。さっき手渡されたメッセージカードを眺めながら、食べ終えた食器をキッチンへ持っていった。
そのままでも良いと言われても・・・、流石にそれは出来ないよなぁ・・・。
食器を洗いながら、昨日の事を思い出す。
思わず、下腹部がキュンと甘く疼いたが、目の端にゴミ箱が入った。
そこにはもう、東堂が捨てた、マッチングリストはゴミ箱にはなかった。
一度リストの送られてきたαは、相手が出来るまで何度も何度もリストが送られてくる。
逆に、リストに載ったΩは相性の良いαと出会えるまで何度もブリーディングさせられる。
拒否すれば、強制的に会場まで連れていかれる。
Ωに拒否権はない。
それでも、相性50%以上と細かい決まりがあり紹介されたαとΩの番解消や事件は少ない。なので、紹介状のきたΩが拒否する事はほぼない。
体液を送付してから、早くて、1ヶ月。長くても半年以内。
統計的に、大体1回から2回目のリストで相手が見つかる。
その後、番になるΩとαは、ほぼ100%と表向きはされている。
けれど、そのあとに運命の番と出会う事も・・・・
東堂は、もう最初のΩと会ったのかな?
リストが送られてきているという事は、決まったΩが居ないという事だが・・・
マッチングはしたかもしれない・・・・・。
そう思うと、何とも言えない気分に尊はなったが、それが何なのか尊自身には分からなかった。
「はい。ちょっと痛いけど、我慢してくださいね〜。」
右腕の内側をアルコール綿で消毒される。
若い看護師に採血の準備をされる。
何度もやっても、この血を抜かれる感じ・・・慣れないよなぁ・・・。
一瞬の痛みの後から、スーッと右腕から血が抜かれ腕が冷たくなっていく感じがする。
「はい!! 終わりましたよ〜。 今日は、ゆっくりしてくださいね。それじゃ〜、後は先生の診察になりますので〜、呼ばれるまで外でお待ちくださぁ〜い。」
血を抜いたところにカットバンを貼りながら、看護師が笑顔でそう告げると血液の入った注射器を片付けながら診察室を出ていく。
「・・・はい。ありがとうございます。」
採血されたところを押さえながら、部屋の外の椅子に座って少し待ってると、別の診察室に呼ばれる。ドアを開けて入るなり、意外そうな声を先生が出した。
「あれ〜? 今日は、彼は一緒じゃないんだ。」
その声に、びっくりして顔を上げる。
「え・・・。あ・・・はい。仕事で・・・。」
「そっかぁ〜。残念だなぁ。まあ、今日は検査だけだし・・・それに、ちょっと気になる数値があってね・・・。」
カルテを見ながら、そう言われ、尊が不安そうに先生を見た。
「え・・・? それって・・・。」
カチャカチャ
「浅野さん、それ僕がやっておくから先にお昼入ってきたら?」
「え? 先輩いいんですかぁ〜? そしたら、お願いしまぁ〜す。あ、その血液検体は業者さんにお願いしま〜す。」
「はいはい。どうぞ、行ってらっしゃい。」
銀のトレーの上に、さっき採血されたばかりの血液の入った検査薬と、アンプル。注射器・・・注射針・・・。
コンコン
「どうも〜。 今日の分の検体を引き取りに来ました〜。」
いつも血液検体の回収をお願いしている会社の新人が元気な挨拶と共に、検査室へ入ってくる。
「はい。これをお願いします。」
手渡されたケースの中身を確認しながら、持ってきた保冷バックに一本一本ラベルと中身を確認しながら、しまっていく。
「あれ・・・?今日の方、貧血か何かですか?」
「・・・どうしてですか?」
「え・・・あ、いや少し量が少ない様な? ・・・って、気のせいですかね。」
保冷バックに血液検体をしまいながら、回収に来た男は思わず口にしていた。
「気のせいじゃないですかね? 量的には問題ないですし。」
「ですね。 じゃ! お預かりします!!」
全ての検体を保冷バックにしまうと、礼儀正しく挨拶をして検査室を出て行った。
「はい。よろしくお願いします。」
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