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コーヒー
はぁ・・・。
売店で買ったコーヒーを飲みながら、診察室で言われた事を思い出していた。
「ん〜、詳しい検査の結果は今度になるんけど・・・。ミヤ君、他で処方された抑制剤とか飲んでないよね? 店にも夜はでてないって言ってたよね。」
カルテを見ながら、先生が首をかしげる。
「え? 抑制剤ですか?」
「そう、抑制剤。 他の病院で処方されたりとか・・・。」
「いや・・・、病院もクリニックも先生の所だけですけど・・・。」
「だよ、ね・・・。詳しい数値が無いと原因ははっきり分からないけど・・・。ミヤ君のフェロモン値がちょっと低いんだよね。」
そう言って先生が、尊の顔をじっと見る
尊自身が嘘をついてるとは思っていなかったが・・・、これは・・・。彼に詳しく話を聞く必要がありそうだな・・・。
「それは、どういう事・・・ですか?」
「ん〜、ミヤ君の彼ってαだよね?」
「はい・・。それが、何か?」
「なんか、変なんだよね。」
先日、クリニックで2人の様子をみた感じだと、2人の相性はかなりいいはずなのに・・・。
ミヤ君の数値は、オメガナイトの前よりも低くなってる・・・。
あの時はいつ、発情してヒートになってもいいくらいだったのに。
このままじゃ、発情なんて起こるはずがない。
それとも、発情することを抑えているのか・・・?
ミヤ君の様子からだと、抑制剤を飲んでるとは思えないし・・・。
けれど、ここに入ってくる時にミヤ君からは彼の香りがしたから・・・・・・
黙ってしまった先生に、不安そうに尊が声をかけると、すぐにいつもの表情に先生がなった。
「・・・先生?」
「ん〜、とりあえず、フェロモンを促進させる薬を出すからそれ飲んでみて。」
「・・・はい。」
「それから、今度は彼と一緒にきてほしい。」
「え・・・はい。わかりました。」
はぁ・・・。
すっかり冷めたコーヒーを一口飲む。
次回の診察は1週間後、血液検査の出る頃に東堂と一緒にかぁ・・・。
今日の感じだと、東堂に診察に来てもらうことは問題ないだろうけど・・・、フェロモンの値が低いと、発情しないって事だよな・・・・。それって、オレと東堂の相性が良くないって・・・事・・・?
けど・・・、昨日も・・・・
はぁ・・・
がっくりと項垂れながら、ぐるぐると出口の無い事を考えてしまう。
ポンッ
「宮嶋君? どうかしたのかい?」
後ろから声をかけられ、肩が跳ねる。
「っせ、先輩。」
「ああ、驚かせてすまない。 すっかりソレ冷えてるじゃないか。」
手に持っていた、暖かいコーヒーを代わりに手渡し尊の持っていた冷えたコーヒーと交換した。
「え・・・先輩。」
「買ったばかりだから良かったらそっち飲みなよ。 流石に、ずっとこんな所にいたら体冷えるぞ?」
そう言って、手渡されたコーヒーを勧められる。
「あ、はい・・・。ありがとうございます。」
渡されたコーヒーの温かさに自分の体が空調の効いた中で冷え切ってた事に気付かされる。
自分の持っていた冷たくなったコーヒーを先輩が引き取る。
「・・・顔色悪いけど、もし良ければ・・・送っていこうか?」
湯気の出ているコーヒーを勧めながら、そう提案してくれる先輩の申し出は有り難がったが・・・
今は、1人なりたい気持ちもあった。
「あ、いや・・・大丈夫です。 迎えが来るんで・・・。」
♪♪♪
タイミングよく尊の携帯に着信が入る。
画面に表示された名前に、ほっとする。
「あ・・・先輩。すいません。迎えがきたみたいなので・・・。コーヒーありがとうございます。」
手渡されたコーヒーを片手に携帯を握りしめて駆け出す。
「うん。気をつけてね。」
あーあ、残念。 僕のあげたコーヒー飲んで欲しかったなぁ。
冷めたコーヒーを飲みながら、ロビーへかけて行った尊の姿を見送った。
コンコン
駐車場に止まっていた車の助手席側をノックすると、助手席側のドアが開けられる。
「おかえり。」
「え・・た、ただいま?」
「今日、一緒に行けなくて悪かったな。」
「ううん。採血だけだったし・・・。」
助手席に乗り込む尊の手に握られてたコーヒーを見て、東堂が少し残念そうに告げた
「コーヒー・・・買ってきたんだけど・・・まだ、それ暖かそうだな。」
「え? あ、これ? さっき、先輩にもらって・・・あ! 東堂!! 」
先輩・・・?
尊の手に握られていた、カップコーヒーを取り上げると、そのまま運転席から外に流した。
「ちょ・・・・東堂! 折角、貰ったのに・・・って、そんな所に、捨てるなよ・・・・」
「・・・ごめん。けど、妬いた・・・。俺の買った方飲んで欲しくて。」
「何それ・・・。まだ、先輩に貰ったやつ口つけてなかったんんだけど?」
「・・・本当に?」
そう言って、代わりにいつものカフェのコーヒーが手渡されるのと、同時に唇にキスをされる。
「!!」
軽く触れるだけのキスだけど、今だに慣れず尊は耳まで赤くなる。
その顔を見て、またキスをする。
「・・・コーヒーの味した?」
「・・・しない。尊の味がする・・・」
東堂が、ぺろりと尊の唇を舐めると、小さく唇を開いた。それをきっかけに、何度も味わう様に繰り返しキスされる。
駐車場を出る頃には、東堂が買ってきたコーヒーもすっかり冷めていた。
「あれ? 今日、採血6件だってよね?」
「そうですけど? 先生、どうかしましたか?」
「いや・・・、気のせいかな・・・。」
「ふふ、先生働き過ぎなんじゃないすか〜。 今、珈琲お持ちしますね。」
「あ、ああ。ありがとう。」
そう言って、手に持っていたバインダーを戻す。
・・・、1セット足りて・・・ない? まさかな・・・
今日の患者を思い返しながら、若い看護師の煎れた珈琲に口をつけた。
バン!!
荒々しく玄関のドアを閉め、窓を開けるとスッキリとした空気が部屋を抜けていく。
月明かりで照らされた部屋の中が暗闇に浮かび上がる。
白い壁一面に張られた、写真が風に揺れる。
そのまま玄関横のキッチンにカバンを置き、洗面所で手を洗う。
ガチャ・・
冷蔵庫を開ると、冷たい空気が溢れる。冷蔵庫の中を確認すると、カバンの中に入れていたカップと赤い液体の入った試験管を仕舞う代わりに中にあった挽肉と材料をとり出し、キッチンへ持っていく。
帰る直前に声をかけられ、予定よりも遅くなってしまった。
仕方ないから、そのまま寄らずに今日は部屋に帰った。
ああ、今度は僕に取らせて欲しいなぁ・・・
しかし、・・・・ ぁあーーーーーーー、あの男 本当、邪魔だなぁ!!!
グチャ
グチャ
夕食の用意をしながら、自分の作った物を咀嚼している尊を思い浮かべる。
ああ・・・宮嶋君にも食べさせてあげたいなぁ・・・。
グチャ・・・グチャ
今日のコーヒーも飲んで欲しかったのに・・・
あの害虫め・・・
まぁ、いいか・・・。 今度、彼の口にたっぷりと、注ぎ込んであげれば・・・・・・。
綺麗な形に整えられた挽肉の塊が二つ。一つは自分の分ともう一つは・・・・
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