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ステーキなら安心
熱された鉄板から、お肉のいい香りがしてくる。
ジュージューと耳と鼻にも食欲を刺激してくる。
見たことの無いような、肉の塊。
「うわあぁ・・・。凄い。 口の中で溶けた・・・」
「喜んでもらえたみたいだな。」
シェフが自分達の目の前で、次々と色々な部位の肉を焼いていく。
東堂に連れてこられたのは、α地区に近い、高級レストラン。
病院から直で連れて来られた時は、自分の格好を心配し、緊張で喉も通らないんじゃ無いかと思った・・・・
けど、そんな事はなかった。
喉を通る前に、溶ける!! ナニコレ!!
びっくりした顔をすると、隣で嬉しそうな顔をしながら尊の前に自分の分の肉を置く。
「そんなに美味いなら、俺の分もどうぞ。」
ニコニコ顔で、促される。
「な・・・なんか、オレ・・・東堂に餌付けされてないか?」
思わず、出された肉と交互にジト目で東堂を見てしまう。
「はは、コレぐらいで餌付けされてくれるなら、安上がりだな。」
ニコニコ顔のまま、東堂は炭酸水を飲む。
車だからと言って、尊には飲ませるのに自分はアルコールは一切取らない。一度、尊が東堂が飲まないならと遠慮した事があるが、気がつくと勝手に高い酒をボトルで注文され、尊が飲まないでいると、そのまま捨てるという事があった。それなら、遠慮するよりは自分のペースで飲んだ方が尊の心情的には楽だった。
「や、安上がりって・・・そんな事、言ってると破産させる位 食べるぞ?」
お皿の上にのせられたお肉を食べながら東堂を見ると、嬉しそうな顔をされる。
「お詫びだから、構わないぞ?」
ニコニ顔のまま、首を傾ける。
ぐッ・・・はぁぁぁ・・・。
東堂は一体、何度オレの心臓をギュッてすれば気が済むんだろ?
あの頃の彼が、こんな顔をするなんて想像したことなかった。
終始、笑顔を向けられ耳まで赤くなっているのが自分でもわかってた。
そんな尊を見て、東堂が気分を良くしている事には気がついてはいなかった。
「いやいや・・・仕事だったんだろ? 別に、お詫びとかいいのに・・・。」
次から次へと、新しいお肉が焼かれ、皿にのせられる。
どれも美味しく、どんなに頑張って冷静に食べようとしても、尊の顔が綻んでしまう。それを、東堂は楽しそうに見てる。
東堂の部屋で食事をした時も、尊が食べている姿を東堂は嬉しそうに見ていた。
それが、恥ずかしくも嬉しい尊は、次から次へと気がついたら食べてしまう。
特に今日は、肉に合わせたワインも、普段以上に気がついたら飲んでしまっていた。
「ちょ・・尊、大丈夫か?」 飲ませすぎたか・・・。
「ん〜、大丈夫〜。」
店を出る頃には、尊は酔いが回っていた。 腰を支えながら車に乗せた時も、大人しく尊が身を委ねきたから、そこでも尊の唇を貪ってしまう。アルコールにも自分にも酔ってしまったのか、グッタリとした尊に、ミネラルウォーターを渡すと頬や首筋に当てながら飲み干す。
そんな尊を、東堂は自分の部屋に連れ帰るつもりだったが、尊が自分の部屋に帰りたいと言ったので、部屋まで送る事にした。
東堂の腕に、もたれながらマンションの前で尊がカバンの中から部屋の鍵を探す。
何かがおかしい。
何とも言えない気配?を感じた東堂は、尊の部屋の方を見上げた。
一瞬、何かが動いた気がした。
「・・・尊、ちょっと、車の中で待ってて。 俺が戻るまで絶対、降りるなよ・・・。」
「ん? ・・・うん。」
尊の額にキスをし、そのままマンションの方に向かう。車の中へ尊が戻ったのを確認してから、東堂は急足で尊の部屋へ向かった。東堂がドアノブに手をかけたのと同時に、ドアが開き同時に何者かが外へ飛び出て行った。
「うわっ!! ま、待て!!!!!」
咄嗟に東堂が追いかけるが、マンション裏に階段から飛び降りた男は、止めていたバイクで逃げられてしまう。
・・・・チッ。逃げられたか・・・。
携帯で連絡しながら、慌てて車の方に戻ると助手席で、ぐっすりと眠っていた尊の姿に安心した。
携帯越しに、こっちを伺う声が聞こえて東堂は慌てて返事をした。
カランカラン
Ω地区内でも、人通りのある路地に面した所に、尊が働くカフェはある。
夜は、その裏路地の地下に通じる階段を降りていくと、バーに繋がっている。
なので、カフェの軽食メニューもバーで食べることができ、昼も夜もΩ地区では人気があった。
スタッフの質の良さも、人気の一つだった。
「おはようございます。」
カフェとバー兼務で働いているΩのスタッフの子が出勤してきた。スタッフの中で歳も若くΩ特有の色気もあり、一番人気のあるスタッフ。尊ともシフトが重なることが多かった。
電話中の尊のおじさんに軽く挨拶をし、スタッフルームへ向かおうとしたところをおじさんが挨拶を返した。
「あ、ああ。 おはよ。 ごめんね、今電話きてて・・・」
「いえ・・・着替えてきます。」
電話中の所に入ってきた、彼がスタッフルームへ向かったのを見届け
電話相手に、尊の事を聞いた・・・・・瞬間
「・・・もしもし。 ああ、それで・・・尊は大丈夫・・・」
ガチャ
後ろから、電話を勝手に切られる。
スタッフルームに行ったと思っていたが、いつの間にか後ろに立っていた。
「あーあ、僕ここの店、結構気に入ってたのになぁ・・・。」
「え・・・あ、君。今・・・!!!!!」
バッチチチ!! スタンガンを後から充てられ、その場にあった物と一緒に大きな音を立てて倒れこむ。
その音と共に、入り口のドアベルが激しい音を立てる。
カランカラン!!!!!!
中に入ってきた男達に吐き捨てるように言っていた
「はぁ・・。 随分早くない?」
入ってきた男達を見て、両手をあげる。 手に持っていたスタンガンは下に落とすと中に入ってきた男達にそのまま取り押さえられる。足元で気絶しているおじさんが救急車に運ばれていく。
「お、おじさん!!! 」
運び出される姿に、尊が駆け寄っていくが、まだアルコールが残っている身体は思うように動けない。東堂に支えながら、担架で運ばれるおじさんに、しがみつこうとした尊を東堂が抱き止める。
「尊、揺すらない方がいいから・・・。」
「と、東堂・・・。けど。」
担架に乗せられ救急車へのせられたおじさんの姿を見て、泣き出しそうになっている、尊の背中を摩りながら、救急車へ一緒に乗るように促す。
「うん、大丈夫だから、一緒に行っておいで。」
「 !!! 」
今にも泣き出しそうな尊を救急車へ乗せる。
その救急車を見送り、カフェの中へ入っていくと拘束されたΩが睨みながら東堂を見た。
「そんなに、あの出来損ないΩが良いのかよ!!! けど、所詮はα、フェロモンには勝てないだろ!!」
ニヤリ
不敵に笑う
「な、なにを・・・?」
取り押さえていた男達に焦りが出る。
「あ、おい!!!!! そいつを押さえろ、誘発剤だ!!!!!」
そう叫ぶのが早いか、押さえ込まれるのが早いか・・・、男が口の中に隠していた、カプセルを噛み砕くとカフェ内にその男のΩフェロモンにが一気に充満した。
「はぁ・・・はぁ・・・。αなんか所詮は・・・この匂いに・・・負けるんだ・・・」
無理やりΩフェロモンを解放し、周囲のαを強制的に発情させるリキッドタイプの誘発剤。βの人間には、ただの毒にしかならない。それほどの劇薬。今では、裏ルートでしか手に入らない代物。その薬の強さに、使ったΩがその場に倒れる。
「おい!! 抑制剤だ!!! 早く持ってこい!!」
取り押さえていた男達が、次々とオメガフェロモンに当てられその場に倒れて行く。
東堂の近くにいた男はまだ動けるのか、急いで外の仲間に伝えに出ていく。
一気に騒然とした現場内。
倒れている男達を横目に東堂が、匂いの元へ歩き始める。
「・・・これが、お前の香りか? 臭くて反吐が出るな・・・・!!」
ガッ
倒れ込んでいたΩの鳩尾を蹴り上げる
「ゲホっつ・・・な・・・なんで・・・。」
「そんな事、お前が知る必要はない。」
もう一度、今度は強く顔を殴られそのΩは気を失った。
「おいおい・・・。今から、それ署に連れていくんだから見える所に怪我作るなよ。」
そう声をかけながら抑制剤を持って入ってきた、男と入れ変わるようにそのΩから高雅が退いて、カウンターに寄りかかる。
「ああ、つい・・・、フェロモンに当てられて凶暴化した。」
興味なさそうに、答えながら手についた血をカウンターのペーパーナプキンで拭う。
「はいはい。そういう事にしておくよ。」
「それは、どうも。感謝してるよ。」
拭った紙ナプキンを男のポケットにねじ込む。
「そう思うなら、さっきの子と今度会わせろよ! でなきゃ、これも借りに付けとくからな!!」
はいはい。と、手を振ってそのままカフェを出て行く。
その後姿を見ながら、男は気を失ったΩの顔を見下ろした。
・・・、こいつも薬使わなきゃ、高雅にこんな顔にされなかったのに。
血まみれになった顔はきっと鼻の骨が折れている。
フェロモンに当てられて凶暴化するαも中にはいるが、高雅に限ってそれは一番ありえない事を男は知っていた。
はぁ・・・
ため息をつきながら、その場に倒れていた部下達にも抑制剤を打ち声をかけに行った。
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