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尊のおじさん
コンコン
軽く病室のドアをノックをし、中に入るとベットの側に座っていた尊と目があう。
中に入ってきた東堂の姿を見ると、抑えていた涙が尊の頬を伝った。
「と・・東堂・・・。なんで・・・なんで・・・。」
おじさんが治療されている間に、警察から説明を受けた尊は、東堂の顔を見た瞬間に色々な感情が抑えられなくなっていた。
本格的に泣き出しそうな尊を宥めながら病室の外へと促した。
「うん、うん。 おじさんが起きちゃうから、外で話そうか。」
「けど・・・おじさんの側にいたい・・・。」
「そっか。じゃ、もう少しここにいようか・・・。」
ベットの横に座りながら優しく尊の体を抱きしめるながら、寝かされているおじさんを見る。
腕に点滴がされているだけで、特に目立った外傷はなかった。
それでも、倒れた時に頭を打っているということで、念の為検査入院をすることになった。
おじさんを襲ったΩの彼は、あのオメガナイトの日も尊と一緒に働いたスタッフだった。
その日、自分より先に東堂と店を抜けた事が気に入らなかった彼は、その日から尊と東堂の事を気にする様になった。それは段々と行き過ぎようになった・・・。
尊と東堂の事を知れば知るほど、元βのくせに、あんな良いαを捕まえた事が許せなかったと・・・。
「尊のマンションに侵入した理由は、部屋をめちゃくちゃにしてやるつもりだった。ってさ」
泣きながら、東堂の話を聞いてた尊だったが、話終わる頃には涙は止まっていた。
「そ・・・そんな・・・。それじゃ・・・・お、オレのせいで・・」
「・・・ミヤ君?」
おじさんがゆっくりと、目を開けて尊の方を見た。
「お、おじさん!!!」
ベットに駆け寄ると、点滴がついていない方の手を尊の方にのばすと、その手を尊は掴んだ。
「ミヤ君、今回のことは・・・・気にしないで。 そもそも、僕が彼を雇わなかったらよかったんだから・・・。」
「そ、そんな! おじさんのせいじゃない。」
「でしょ? だったら、ミヤ君のせいでもないよ・・・。」
「けど・・・」
「それに・・・僕がオーナーとして、他のスタッフ達にも気を使ってあげてればよかったんだよ。」
尊の頭をおじさんが撫でると、おさまっていた涙がまた溢れ出る。
それを指で拭いながら、おじさんが事件の話をしていた東堂の方を見る。
「・・・東堂君、尊の事 守ってくれてありがとう。 君に電話をもらった時、僕がもう少し態度に出さなかったら、こんな事にならなかったのに・・・。」
「いえ・・・、むしろ連絡をしてしまった事で危険な目に合わせてしまってすいません。」
「僕が、連絡してと言ったんだ。気にしないでくれよ。それに、彼、誘発剤使ったんだろ? 君こそ、大丈夫だったかい?」
「ええ、まぁ・・・・。 昔からその手のには慣れているので・・・。」
そう言った東堂の顔を見て、おじさんもそれ以上は何も東堂には聞かなかった。
「そう・・・。αってのも、大変なんだな。」
東堂の言葉を素直に受け取ったのか、同情するような言葉をおじさんが口にしたが、尊は何かが胸に引っかかった。
「先生、先日の血液検査の結果来てますので、ここに置いておきますね〜。」
「ああ、ありがとう。」
机の上に置かれた結果を確認する。
「・・・やっぱり・・・。」
検査結果を見て、引き出しから名刺を取り出した。
名刺に書かれている連絡先に、一本の電話をかけた・・・。
病院の待合室で電話をしていた、東堂を迎えにきた尊の方に歩き出す。
「東堂? 電話もういいのか?」
携帯の電源を落とし、ポケットにしまいながら尊を腕の中に迎え入れる。
「ああ、今日の事で警察から都合の良い日に来てくれってさ。」
「そっか・・・。」
「そんな顔するなって。」
東堂が優しく頬を撫でると、尊はその手に目を閉じた。
おじさんと東堂の強いススメもあって、あのマンションは解約する事になった。元々、おじさんの所に間借りしている事もあり、必要なもの以外は全部処分する事にした。
事件から、1週間。
あのΩの処分が決まった連絡を受け、気持ちの整理がまだつかないまま、尊たちはマンションに部屋を片付けるために来ていた。
部屋を片付けながら、ずっと気になっていた事を、東堂は尊に聞いていた。
「・・・このマンションに何か思い入れでもあったのか?」
尊がカフェのオーナーと血縁関係じゃない事は知っていたし、尊の部屋が用意されている事も知っていたからこそ、あんな目にあってまでこの部屋を維持する理由が分からなかった。
それは、初めて入った尊の部屋を見ても理解できなかった。
ワンルームの部屋は、警察が捜査したあと、少しは片付けてくれたらしく、想像したよりは綺麗になっていた。 本棚と机、ベット。小さなテレビ。 決して、眺めが良い訳でもないベランダ。
バストイレは別だが、体育座りで入らないと浸かれそうに無い浴室。
学生が初めて1人暮らしするような場所。
それでも、東堂が高校時代1人で暮らしていた部屋よりも随分と居心地は良さそうではあった。
「あー・・・うん・・・。まぁ・・・・」
一つ一つ、不用品と必要な物を確認しながら、箱に詰めていく。
ポツリポツリと尊はこの部屋の事を話始めた。
東堂も、箱詰めを手伝いながら静かに聞いていた。
元々、あの部屋は高校卒業後1人暮らしをする為に両親が借りていてくれた部屋だった。
家電や家具も、両親が尊に残してくれた物だった。βだった親がΩ地区に子供の一人暮らし用の物件を借りることは特に珍しいことでは無かった。
β地区よりもΩ地区の方が、マンションにオートロックの物件が多く、β地区に近いΩ地区にはΩだけでなく、βも申請すれば住む事が出来た。マンションの話を聞いたのは、バス旅行の時だった。あとは手続きだけになっていると聞いていたマンションも事故があった後、Ωになったので余計な申請は必要なくなった。それ以来、そのままこの物件を借りる事にした・・・・。
親の残した最後の、プレゼント。
「なんとなく、ここがオレの帰る家なのかなぁ・・・・って。」
「・・・尊。」
俯いた時に、涙が手の甲に落ちた。
何も言わずに、東堂が尊の肩を抱き寄せる。
そのまま、東堂の胸に寄りかかると、東堂が尊にキスをした。
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