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発情抑制
あの香りを嗅いだのは、オメガナイトの夜以来だった。
全身の血液が沸騰したように熱を持ち、尊の全てを自分のモノにしたい衝動に駆られた。
何度、尊の中で達した所で治まる気配は無く、最後は尊の意識がトブまで中に出してしまった・・・。
冷静になった時に、血の気が引いた。
尊の全身に、噛み痕だけで無く、鬱血し中には青くなった所もあった。
ネックガードをしていた所は、見るも無惨な状態だったが、ネックガードのおかげで無理やり番になる事は無かった。その事だけに、安堵した。
本能的に、尊は俺のΩだと思った。
けれど、もしそれが自分の自己満足の思い込みだったら・・・
このボロボロになったネックガードが、自分の姿と重なる。
事件のあった日
俺は病院で一本の電話を受けた。
『こちら、東堂高雅さんの連絡先で宜しいでしょうか? 私、国立バース診療の音羽です・・・。
宮嶋尊さんの件でご連絡させて頂きました。』
コンコン
「ああ、今日は呼び出して悪いね。」
「いえ・・・。」
診察室に入ってきた姿を確認すると、人払をする。
「・・・この事は、ミヤ君は知っているのか?」
「・・・なんの事でしょうか?」
カルテを見ながら、東堂にそう切り出す。
眉一つ動かす事も無い・・・のか。
それはそれで、面白い・・・けど、返答によっては・・・・。
血液検査の結果を、東堂の前に出すと東堂はそれを手に取った。
「これは? 尊の血液検査の結果ですか?」
「ああ、そうだよ。 そこのFの値。それが異常に低くなってるんだ。で、こっちが前の結果。明らかに、その数値だけが落ちてるだろ? 」
「・・・。」
「Fが示す値は、彼が正常にΩとして発情できるかどうかを表してるんだけど・・・、このまま低くなると、彼の身体は異常をきたすよ。」
「!」
検査表を見ていた顔がその言葉で、先生の方を見た。
「彼に、処方した薬はこの数値を正常に整えるが・・・、もしこの薬と反するモノを摂取していたら、彼は衰弱し精神異常をきたす様になる。それくらい、彼のF値の数値が良くない。」
「・・・・。」
「それに、僕が処方したもの以外・・・、どんなものかも判らないモノ。どんな副反応を起こすか判らないしね・・・・。」
鋭い視線が東堂に突き刺さる。
「・・・、もし服用をやめたらどうなるんですか?」
「そんなの、普通に発情してヒートがくるに決まってんじゃん!! それが、普通なんだから。それを、今のミヤ君は無理やり起き無い様にされている状態なんだよ。そんなの異常な事なんだよ。」
「・・・異常か・・。」
「・・・、君の方の事情は知ら無いが、ミヤ君の事を想うなら抑制剤を飲ませるのはやめてほしい。それも、α用のなんてΩには毒でしかないんだ。」
「・・・。話はそれだけですか?」
「ああ。そうだよ。 それと・・・・」
内線ボタンで、看護師を呼ぶと採血キットを持って診察室に入ってきた。
「君の血液検査もさせてもらうよ。」
「・・・拒否したら?」
「おや? 逆に、何か問題でもあるのか?」
「はぁ・・・聞いてみただけですよ。どうぞ、好きなだけ取ってください。」
「あはは。じゃー2リットルくらい貰っちゃおうかな〜。」
「いや・・・それ、死んでる・・・。」
ゴムバンドで止血され、アルコールで腕の内側を消毒される。
針が腕に刺さる。
「・・・僕、それぐらい怒ってるんだよ・・・。」
「え・・・。」
どんどん血が抜かれていくのを見て、背中のに冷たいモノを一瞬感じた。
「はい! 終わり!!」
手元に試験管2本分。普通に検査で使う量に内心ホッとする。
あの時の目は、本気だった。
この医者・・・。
止血しながら、先生を凝視してしまう。
「何? そんなに見られると、先生Ωだから疼いちゃう〜。」
「!!」
バチん とワザとらしいウインクをされて、東堂があっけに取られる。
「君、意外と年相応なんだね・・・。」
東堂の表情が最初にあった時よりも柔らかい所為か・・・幼く見える。
問診票に書かれた生年月日を見て、少し驚いた記憶が蘇った。
「え・・・?」
「そっか、ミヤ君と同い年だっけ・・・。」
さっきまで殺気すら感じた瞳に、慈愛の色が見えた。
「・・・はい。」
「じゃ、ミヤ君が元βだった事は?」
「・・・知ってます。 ・・・高校の・・・。」
珍しく、東堂が言い淀むと、聞き取れなかったのか先を促すように先生が聞き返した。
「う、ん?」
「同級生なんで・・・。」
その言葉に、先生は一瞬言葉を失った。
高校の同級生?
確か、宮君はβの学校だったんじゃ・・・。
まぁ、αでもβの学校にいく事はあるけど、彼はきっとそこで馴染めるような子じゃないだろうに・・・。見るからに、αの特徴を受け継いでいるけれど・・・
「はぁぁ・・・、僕は、もう番がいるから・・・何かあったら相談においで!」
白衣の胸ポケットから名刺を取り出す。
名刺を出され、一瞬躊躇する姿をいて思わず笑ってしまう。
「だから、番いるって言ってんだろ。 全く、ミヤ君と同じリアクションやめろよな。そっちはプライベートクリニックの方のだよ。 前に来ただろ?」
「あ、ああ・・・。ありがとうございます。」
「じゃ、次は君の血液検査の結果出た時に2人できて。」
「・・・・はい。」
その検査結果が、今日出たと先生から連絡があった。
きっと、その結果を聞いたら尊は俺を許さないかも知れない・・・。
けれど、もう尊を手放したくない。
ボロボロのネックガードはそんな自分・・・。
「・・・尊、さっき病院から連絡あったんだけど・・・。」
「・・・あ、れ?? 今日だっけ・・・?」
東堂に寄りかかっていた尊が焦りながら、部屋のカレンダーと携帯画面を確認する。
「え!? あれ?? 二日経ってる?!」
「あぁ・・・。まぁ・・・、短い方じゃないか?」
「え・・・? ど、どういう・・・え??」
「で、行けそう? 身体、無理そうだったら、来週にするか?」
「あ・・、ううん。大丈夫だけど・・・。その・・・・」
もじもじしながら、何か言いたげな表情で見上げてくる。
その顔が可愛くて、思わず凝視する。
どんどんピンク色に染まってく尊に、最後は布団に隠れられてしまう。
「東堂、見過ぎ!!」
「いや・・・つい。可愛くて・・・」
「あーーーーー!!もう!! 病院行く!!検査結果だけなら内診しないよな!!?」
「え・・・あ・・。あぁ・・・、それは・・・なんかすまん。」
尊の身体の状態を思い出し、東堂も思わず照れてしまう。
確かに、いかにもな状態をあの先生に知られるのは・・・ちょっと、恥ずかしい気もする。
「あら・・・? 先生、宮嶋さんのカルテ知りません?」
「いや、知らないけど?」
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