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動き出す

「明日、診察予定なんですけど・・・、カルテが見当たらなくて・・・。」 先生と看護師が一緒になってカルテの棚を確認していると、若い看護師がクリアファイルに入ったカルテを差し出してきた。 「これですかぁ〜? さっき、メガネ先輩が受付の人がって持ってきてくれましたよ〜・・・?」 「そう? 電話連絡でもした時に返し忘れたのかしら?」 「・・・その電話連絡は誰がした?」 そう先生が看護師達に聞くと、自分たちではないと答えた。 その返答に、今までの違和感が蘇った。 慌てて、そのカルテの棚を確認する。 「・・・ない?」 彼のカルテがファイルごとなくなっている。 なぜ・・・? 急いで、自分の診察室へと向かって走り出して。 「え? 先生!!?」 先生の慌てぶりに、看護師達はあっけに取られてその場から動けなかった。 はぁ〜。なんだこれ?  あいつの名前がなんで、彼のカルテに記載されてんだ? 気に入らないなぁ・・・。 それに、これ・・・。 あいつ、いまだに抑制剤飲んでんのか? さすが、モテるα様だ事。 シュレッダーに紙が次々と吸い込まれていく。 こんなの無くていい。 「お! オレにもコーヒーくれよ!」 「ああ、今入れる。」 「サンキュー」 「あーいいな〜。オレも欲しい〜。」 「そーいや、さっきΩ診察棟の方行ったら、音羽先生が血相変えて走ってたぜ。」 「へー、珍しいな。」 同僚2人にコーヒーを手渡し、自分の分のコーヒーを入れて同僚たちが座っているテーブルに座る。  事務局の奥にある、看護師たちの休憩スペース。 ここは、βの看護師用で滅多に医師が立ち寄る事はなかった。 基本、αの患者は受け入れてはおらず、番のΩが患者の場合のみ稀に一緒に診察をしたりする。 それも医師が認めた場合のみ。 バン!!  「・・お・音羽先生どうかしましたか?」 「はぁ・・・はぁ・・、き、君、カルテを知らないか?」 事務局に勢いよく入ってきたと思えば、そんな事をいきなり聞かれた看護師達は皆不思議そうな顔をしていた。その中でコーヒーを飲んでいた、メガネの看護師が素知らぬ顔で答えてたのだった。 「さっき、受付に置かれたままのカルテはお持ちしましたけど? 他に方のですか?」 「あ、ああ。そうなんだが・・・。」 「さぁ・・・、僕たちはここで休憩してたので・・・。見かけたら診察室にお持ちします。」 「そう・・・。頼んだよ・・・。」 看護師たちは、殆どくる事のない医師の突然の来訪に戸惑いながらも音羽の様子から、よっぽどの事件だという事は感じていた。 看護師たちの反応から、事務局を出ようとした音羽の目に入口横のシュレッダーが入る。 そのシュレッダーに、紙端が挟まっているのが見えた。 !? あ、あの色は・・・ 他の医師は知らないが、カルテの端に、音羽はバースで色分けをしていた。 その印と思われる部分の紙端・・・。 まさか? けれど・・・・ 「音羽先生? どうかされましたか?」 「いや・・・。なんでもない。 休憩の邪魔をしてすまないね・・・」 後ろ髪を引かれる思いだったが、冷静な顔をして事務局を出ていく。 振り返るな・・・ 気付かれるな・・・・。 「・・・・。」 先生の後姿が見えなくなるまで、見届ける。 さっき、何を見た・・? 視線の先をたどる。そこにあったのは、シュレッダー。 ・・・ふーん。 ただの花畑Ω医師じゃなかったか・・・。 滅多に来ないΩ医師の来訪にコーヒーを飲んでたβの看護師たちは、僅かに色めいていた。 そんな彼らを、小馬鹿にしたように鼻で笑いながら事務局から出ていった。 あーあ、ここもそろそろ潮時かなぁ? 折角、ミヤ君と再会できたのに、本当あいつら邪魔だよなぁ。 た、確かここに・・・。 今朝、若い看護師が持ってきた彼の血液検査の結果。 あれだけは、カルテに入れてなかったおかげで、無事だった。 カルテの内容は、全て電子入力してあるから紙のカルテが破棄されていても診察に問題はないが・・・この検査結果だけは、再発行に時間がかかる。 それに・・・これは、きっと彼らにとって・・・ 封筒の中の書類が無事だった事にホッとしながら、電話をかける。 「もしもし?」 電話口に出た声にホッとしながら、用件を伝えた。 「血液検査の結果が出たから、僕のプライベートクリニックに来て欲しい。」 ガタッ 受話器を置いたのと同時にドアの外から物音がした。 「!! 誰だ!」 診察室のドアを勢いよく開けたが、ドアの外には誰もいなかった。 ホッと一息 深呼吸をして、音羽はポケットから携帯を取り出した。 「ああ、けど・・・やっぱ・・・どうしよう。」 布団にくるまった状態で、もぞもぞと悩んでいる尊の背中を撫でる。 「そんな、恥ずかしがらなくても良いんじゃないか? それに、プライベートクリニックの方にって、先生は言ってたぞ?」 「そっか・・・それなら・・・。」 もぞもぞっと布団から顔を出した尊の唇にキスをする。 「!!」 びっくりして、また布団に潜ってしまう。 そんな事を何度かやりとりしてたら、随分と時間が経っていた。 クシュン 「ああ、悪い。いい加減、着替えないとな・・・。でないと、今日はもう外に出れなくなる。」 「え・・・あ・・と、東堂・・・ん。」 布団の中にくるまっていた尊の体を抱きしめる様に東堂の手が入り込む。 さっきまでの軽いキスで、緩やかに反応しかけていたそれを握り込まれ、耳元で囁かれる。 その声に、東堂の方を向けば深く口付けられ、口腔内に舌が入り込む。 「ん・・・」 「ほら、用意しないと・・・。だから、このまま出しな・・・。」 その言葉と共に、あっけなく東堂の手の中に果ててしまう。 チュッと額にキスされ、東堂はティッシュで手を拭う。その姿に、尊は居た堪れなくなる。 東堂が何もかも初めての尊は、東堂に何かしてあげる前にすでにグズグズにされて訳がわからなくなってしまうのが、申し訳ないやら恥ずかしいやら・・・何か自分もしたいけどどうしたら良いやら・・・。  Ωとのヒートセックスはαにとって最高に気持ちいい。 そう誰かが高校時代話題にしてたけど・・・、自分とのセックスに東堂は満足してくれてるんだろうか? Ωらしく、ヒートも発情もまだした事が無い自分なんかと・・・。 今までの東堂の相手の様に自分も飽きられてしまうんじゃ無いかと、胸が痛んだ。 「尊? どうかした? 着替え手伝おうか?」 「ううん。 大丈夫だよ。シャワー浴びてくる・・・。」 「わかった。そしたら、ちょっと電話かけてくるから、鍵かけといて。」 「うん。」 玄関の鍵をかけると、東堂が電話をかける声が聞こえた。 その声に安心しながら、尊はバスルームへ入っていった。

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