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繋がる

「しっかし、先生が高雅の知り合いだったとはな・・・。」 取調中に連絡をしてきたのは、音羽だった。 「ああ、僕もまさか君が繋がってるとは思わなかったよ。」 診察室で向き合って座りながら、男の右手に包帯を巻きながら話していた。 「で、先生・・・。オレを呼んだ理由はなんだ?」 「・・・そんなの、わかってんだろ?」 ひと睨みされるが、連絡をもらった時点で先生の用は察しが付いていた。 「はぁ・・・、オレ、弟達に恨まれるのすんげー嫌なんだけどなぁ・・・。」 「・・・それ関係あるのか?」 意外な人物達を話題に出されて、一瞬思考が止まる。 「まぁ・・・そっかぁ・・・。先生と高雅も親戚になるかも知れないなら・・・、話しておいても良いのかも知れないよなぁ・・・。だから、その手離してほしいんだけど・・・・。」 なんだかんだ理由をつけながらも、話すつもりではいるのか・・・言い訳をぶつぶつと言っている。そんな男の手を思いっきり先生は握りしめていた。それも包帯を巻いた方の手を。 地味に傷口に爪を立てて。 痛いと訴えられ、話をするのを条件に手を離したが・・・ 「ただ、刑事のオレが他人のプライベートをベラベラ喋るのは気が引けるから・・・、了承をもらってから改めて話すよ。」 「あ!! おい!」 そう言うが早いか部屋を出るのが早いか・・・先生が男の後を追って、診察室のドアを開けて外を見た時にはもう姿は無かった。 コンコン 「高雅、具合はどうだい?」 「・・・げ・・・。叔父さん・・・。」 「・・・げっとは、随分だな。お前が怪我したって聞いたからこうやって態々きてやったと言うのに・・・・。」 「・・・その割に、俺よりも病室内ばっかり気にしてる様だけどな・・・。」 「あははは、バレた? 居るんだろ?高雅がこんなんになってまで助けた子がさ。」 「チッ・・・。あいつか?チクったの。」 「まぁ、そー言うなって。叔父さんは、お前の代わりに会社の面倒見てやってんだし、紹介くらいしてくれても良いだろ? それに・・・」 ガチャ・・ 何か叔父が話かけてた時に、タイミングよく尊が病室に戻ってきてしまった。 「東堂? 誰か、お客さん・・・」 叔父の姿を見て、尊が一瞬言葉を失う。 その様子に、東堂はモヤっとしてしまう。 確かに、叔父は自分で言うくらい、αとしても男としても容姿も整っている。 番が居る事で他のΩのフェロモンに影響されないとはいえ、その見た目から未だにβの女や怖いもの知らずのΩが近寄ってきているのは、東堂は知っていた。 だから、番でも無い尊が、叔父の姿を見て自分より叔父を選んでしまうなんじゃ無いか不安だったのだ。同じように、あの刑事の男にもできれば尊を近づけたく無いのは、彼がαで仕事の出来る男として東堂が認めているからだった。 けれど、尊からでた言葉に東堂の心配は無駄だったとほっとしてしまった。 「あ、あの・・・東堂のお父さんですか?」 もじもじとしながら、東堂の父ならもっとちゃんと挨拶したかったとか・・・ 小さな声で東堂に耳打ちしてくる。 「あぁ・・・違うよ。私は、そこの小僧の叔父だよ。」 「え!!あ・・東堂の叔父さん!? す、すいません、オレ・・・。」 叔父が楽しそうに尊の反応を見ているのに、さっきから無性にイラつく。 「おい、叔父さん! 見舞いに来たんじゃねーのかよ。」 「おやおや〜。」 怒鳴る東堂の様子に、叔父の顔がにやけ始める。 「と、東堂! そんな興奮すると、傷に響くぞ!」 慌てて、東堂を宥める尊の姿を見て、伯父の顔はさらににやける。 「あーーーーもう! 叔父さんその顔やめろよ!!」 手元にあった枕を叔父に投げつけよとすると、尊が焦って止める。それを見た伯父がさらににやけるから、東堂はまたムキになって枕を投げよとした。 「あはは、高雅のそんな姿、初めて見たからね〜。 つい、顔が緩んじゃうんだよ。けど・・・そっか、そっか・・・。」 なるほどね・・・。彼から連絡を貰ったからきて見たけど・・・。 2人の様子を見て、自分がここくる事になった理由に納得した。  急にトーンの下がった叔父に、東堂も尊も騒ぐのをやめる。 「・・・宮嶋 尊くん。」 「え・・あ、オレ・・・名前。」 叔父が、尊の名前を真剣表情で呼んだ。 俺は、尊の事を話した覚えはないのに・・・。 「高雅も・・・すまない。少し、尊君の事を調べさせてもらったよ。」 「なっ! 叔父さん!! お、俺は絶対尊と別れ・・・」 高雅に、黙るよう手で制すると、笑顔を見せた。 「尊くん、今回はこんな事件に君を巻き込んでしまって申し訳なかった。」 「え・・・?」 予想していなかった言葉に、2人は何も言えなかった。 「あの男は君たちの高校の先輩で、尊くんの事をストーキングしていた。けれど・・・、私があの男を野放しにしてしまったから・・・。君に怖い思いをさせてしまった。 本当に、申し訳ない。」 「は? ど、どういう事だよ?」 叔父の突然の告白に、東堂も尊も動揺が隠せなかった。 一体、先輩と叔父にどんな接点があったというのだろうか・・・? 「今回ので、二度目なんだ。あの男が、同じ様なことをしたのは・・・」 「え・・・。」 「私があの時に、あいつを刑務所に閉じ込めておけば、こんな事にならなかった。」 「そ、そんな・・・。それより、その子は・・・」 「ああ、君よりも早い段階で助ける事が出来たんだ・・・。その所為で、証拠も少なくて・・・。 それに、被害者側のケアを考えてあまり大事にしなかったんだ。」 自分の事の様に、叔父の顔が苦痛に歪む。 東堂ですらそんな顔を見た事が無いのに、初めて会った尊がそんな顔をした大人の男を前に、何か文句が言える訳がなかった。 「その所為で・・・君を・・・、尊君を・・・こんな目に合わせてしまって、申し訳ない。償いとしてじゃないが・・・・もう二度と君の様な子を出さないと誓う。」 「・・・叔父さん。」 叔父の真剣な表情から、それがその場凌ぎの言葉じゃない事が東堂には伝わった。それに、叔父がこんな事を言うと言う事は・・・・ あの先輩はもう・・・そんな気すらしていた。 けど、それは尊に言う事では無い。きっと、言ってしまえば尊は罪悪感を感じてしまうだろう・・・。 ただ、話を聞いていた尊の手を優しく東堂は握ると、尊が握り返す。 尊も指先から伝わる東堂の体温にホッとしていた。 そんな2人に、叔父は言葉を続けた。 その内容に、東堂が焦る。 「・・・それから、高雅が・・・君にしていた事についても・・・。叔父である私からも謝罪をしたいと思う。」 「!! 叔父さん!!!!!!」 「・・・え? 東堂?? なんの事・・・」 「場合によっては、尊くん。高雅を訴えてくれても構わない。」 急な展開に尊の思考が追いつかない。 東堂を訴える???  「え??? ちょっと・・・な、なんのことか・・・わからないんですけど・・・。」 それが、尊の今の率直な感想。 一体どういうこと? 尊の東堂を見る顔がそう告げている。 大きなため息を一つ 東堂が覚悟決める。 「・・・叔父さん。その事は、自分で尊に伝えるから。今日はもう、帰ってくれないか?」 あの日、病院に呼び出されて時から、尊には言わないといけない事はわかっていた。  叔父を真剣な顔で見ると、あっさりと引き下がって叔父は病室を出て行った。 病室に残された2人に、重い沈黙が流れる。

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