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こっちを向いて。俺だけを見て。 5

 結局、炊飯器のご飯は、茶碗二杯分を残して、一食分ずつ小分けにしてラップに包み、冷凍庫にしまうことにした。健人さんの家のキッチンは調味料が充実しており、普段自炊をしているのだなということがうかがえた。冷蔵庫を開けると、タッパーに入った、作り置きのおかずらしきものが見えた。卵をパックから二個取り出す。吊り戸棚にあったボウルに割り入れ、菜箸でかき混ぜる。  俺は手元のスマートフォンでレシピを調べた。 「見なくても作れると思うけど、健人さんに食べさせるものだから、一応、ね」  キッチンには俺しかいないのに、誰かに言い訳しながら、画面をスクロールする。手順も味もシンプルそうなレシピを選ぶ。  水と醤油、顆粒だしの分量をはかって鍋に入れ、火にかけた。  ――美味しくできるといいなあ。俺の雑炊で、健人さんの舌を満足させられるかな。  鍋の底から上がってくる泡を見ながら、俺は結構緊張していた。   * 「できた、はず」  最後に入れた卵が固まったところで、上から小ネギを振りかける。見た目は美味しそうだ。レシピ通りだから多分味つけも大丈夫だと思う。  俺は鍋の中にスプーンを突っ込んで、雑炊を味見してみることにした。 「あっつ!」  米が舌に触れた瞬間、涙が出た。慌てて蛇口をひねってコップに水を注いで飲んだ。熱すぎて味が分からなかった。今度はお玉で少しだけすくったものを小皿に乗せ、ちゃんとフーフーしてから食べる。  ――多分、美味しいと思うけど……。  やけどしたせいなのか、味がよく分からない。少し塩気が足りないような気がするが、醤油を足すのは健人さんに味見してもらってからにしよう、と火を止めた。  健人さんの分は、浅い皿に盛り付け、平らに慣らしておくことにした。やけどしないように、冷ましておこうと思ったのだ。  使った道具を洗い、水切りかごに並べ終わったあと、健人さんの様子をうかがいに部屋に戻る。健人さんがベッドに横になったまま、うっすらと目を開け、俺の方に顔を向けた。 「悠里……?」 「あ。おはよう。眠れた?」 「はい。少し」 「雑炊食べられそう?」 「食べたいです。悠里が作ってくれたと思ったら、食欲が出てきました」 「それは良かった。持ってくるね」  俺はきびすを返して、キッチンスペースに戻った。

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