7 / 87
こっちを向いて。俺だけを見て。 5
結局、炊飯器のご飯は、茶碗二杯分を残して、一食分ずつ小分けにしてラップに包み、冷凍庫にしまうことにした。健人さんの家のキッチンは調味料が充実しており、普段自炊をしているのだなということがうかがえた。冷蔵庫を開けると、タッパーに入った、作り置きのおかずらしきものが見えた。卵をパックから二個取り出す。吊り戸棚にあったボウルに割り入れ、菜箸でかき混ぜる。
俺は手元のスマートフォンでレシピを調べた。
「見なくても作れると思うけど、健人さんに食べさせるものだから、一応、ね」
キッチンには俺しかいないのに、誰かに言い訳しながら、画面をスクロールする。手順も味もシンプルそうなレシピを選ぶ。
水と醤油、顆粒だしの分量をはかって鍋に入れ、火にかけた。
――美味しくできるといいなあ。俺の雑炊で、健人さんの舌を満足させられるかな。
鍋の底から上がってくる泡を見ながら、俺は結構緊張していた。
*
「できた、はず」
最後に入れた卵が固まったところで、上から小ネギを振りかける。見た目は美味しそうだ。レシピ通りだから多分味つけも大丈夫だと思う。
俺は鍋の中にスプーンを突っ込んで、雑炊を味見してみることにした。
「あっつ!」
米が舌に触れた瞬間、涙が出た。慌てて蛇口をひねってコップに水を注いで飲んだ。熱すぎて味が分からなかった。今度はお玉で少しだけすくったものを小皿に乗せ、ちゃんとフーフーしてから食べる。
――多分、美味しいと思うけど……。
やけどしたせいなのか、味がよく分からない。少し塩気が足りないような気がするが、醤油を足すのは健人さんに味見してもらってからにしよう、と火を止めた。
健人さんの分は、浅い皿に盛り付け、平らに慣らしておくことにした。やけどしないように、冷ましておこうと思ったのだ。
使った道具を洗い、水切りかごに並べ終わったあと、健人さんの様子をうかがいに部屋に戻る。健人さんがベッドに横になったまま、うっすらと目を開け、俺の方に顔を向けた。
「悠里……?」
「あ。おはよう。眠れた?」
「はい。少し」
「雑炊食べられそう?」
「食べたいです。悠里が作ってくれたと思ったら、食欲が出てきました」
「それは良かった。持ってくるね」
俺はきびすを返して、キッチンスペースに戻った。
ともだちにシェアしよう!