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こっちを向いて。俺だけを見て。 11
*
使った食器を洗って戻ってくると、健人さんがベッドに腰掛けたまま、あくびをして目をこすった。
「雑炊とアイスを食べて、薬を飲んだら眠くなってきました」
「具合悪いんだから、おとなしく寝たら?」
健人さんが唇を尖らせた。
「でも、寝たら悠里と話せない」
甘えた声を出して俺を見上げる。きゅんきゅんと胸が締めつけられる。健人さんのことが好きだ、と俺の体が主張してくる。
「大丈夫。俺はどこにも行かないよ。健人さんのそばから絶対離れない。これからもずっと。だからいつでも喋れるよ。今は寝な?」
俺は布団をめくって、ベッドの上をぽんぽんと叩き、そこに寝るように促した。
「……ありがとうございます」
健人さんが素直にベッドに横たわる。その体に布団をふわりとかけてから、手をつないだ。俺は床に膝立ちになり、健人さんの胸につないでいない方の手を当てた。
「ずっとそばにいるから。安心して眠って」
胸を一定のリズムでトントンとたたく。健人さんの目が少しずつ閉じていき、やがて寝息が聞こえてきた。
「おやすみ」
健人さんのことを起こさないように小さな声で囁く。俺は、手をつないだまま床に座り込み、ベッドにもたれかかった。
健人さんが素敵な人すぎて、健人さんの恋人は本当に俺でいいのかなって思うことの方が多いけど、でも俺が健人さんじゃないとよくないから。他の人じゃだめだから。健人さんとずっと一緒にいたい。この手を離したくない。健人さんが一生心変わりしないで、俺だけを見ていてくれますように。
つないだ手から健人さんの熱を感じながら、願った。
(「こっちを向いて。俺だけを見て。」了)
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