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会うたびに好きになる 2

  *  インターフォンの音で目が覚めた。ベッドに横になっているうちに、うつらうつらとしていたみたいだ。 「はーい」  目をこすりながら扉を開けると、息を切らした健人さんが俺の胸に飛び込んできた。 「悠里! 大丈夫ですか?」 「うん。少しだるいなーってくらい」 「悠里にもしものことがあったら、と心配でした。でも思ったより元気そうでよかったです」  力を込めて抱きしめられる。俺は健人さんの首元に顔をうずめた。 「このくらい、寝てたら治りそうなのに、変な連絡しちゃってごめんね。健人さんに余計な心配させちゃったし、言わなきゃよかったよね。迷惑かけてごめん」  俺が言うと、健人さんの体がはがれた。俺の両肩をがっちりとつかみ、真剣な顔つきで俺を見た。 「心配させてください」  首を傾げると、俺の肩に置かれた手に力がこもった。 「悠里、よく聞いてください。僕は、僕の知らないところで悠里が苦しんだり、つらい思いをしていたりする方が耐えられません。そっちの方が迷惑です。だから、なんでも僕に言ってください。どんな些細なことでも、こんなこと言ったら笑われるかなと思うようなことでも、全部言ってください。僕を困らせるかもなんて思わなくていいです。むしろもっと困らせてほしいです」  じんと目頭が熱くなった。口を開いたら泣いてしまいそうで、何も言えない。健人さんが言葉を続けた。 「僕は、悠里のすべてを受け止めたいです」 「……ありがと。嬉しい」  微笑んでみせたつもりが、涙が頬を滑り落ちていく。もともと涙もろいのに、健人さんのことを好きになってから、泣く頻度が高くなったような気がする。 「これからは、小さなことでも言うようにするね」 「はい。よろしくお願いします」  健人さんが俺の肩から手を離し、再び抱きしめてくれた。  俺がどんな感情を爆発させても、健人さんは全部受け止めてくれるから、甘えてしまう。絶対に俺を見捨てたりしないって分かるから、素直になりすぎてしまう。  ――真っ先に健人さんに連絡してしまったのは、心配して甘やかしてほしかったからかもしれない。  健人さんの体温を全身で感じながら、自分の気持ちに気づく。  俺は誰かに看病してもらった記憶がない。熱を出して学校を休んだ時、母さんは「休めなくてごめんね」と言いながら仕事に向かった。だから、具合が悪い時も一人でなんとかするのが普通だと思っていた。成長するにつれて体が丈夫になり、めったに風邪をひくこともなくなったから忘れていたが、具合が悪くなるといつも心細くて、泣きそうになっていたことを思い出した。「母さんも頑張っているんだから、俺も頑張らなきゃ」と思って、ぐっとこらえていたけれど、本当は、こんなふうに甘えたかったのかも、なんて。健人さんに抱きしめられながら、俺の心が昔にタイムスリップしてしまったような気がした。 「健人さん」  俺は健人さんの肩に顎を乗せた。 「なんですか?」 「いっぱい甘やかしてくれる?」  甘えん坊の子供のような声が出た。恥ずかしかったけれど、健人さんが「もちろんです」と頭をなでてくれたから、言ってよかったなと思う。 「健人さん、あったかい。気持ちいい」  目をつぶって健人さんの背中に両腕を回すと、健人さんが身じろぎした。 「このまま立ち話を続けていたら、悠里の体に差し障ります。とりあえず病院に行って、帰ってきてからゆっくりしましょう。ね?」  優しい声で促してくるから、俺は素直に頷いた。

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