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ショートケーキを召し上がれ 3

  ※ 「ふー、いっぱい食べた」  店の外に出た悠里が、両手を天に突き上げて、伸びをした。 「ですね。お腹いっぱいです」  答えると、悠里は信じられないという目で僕を見た。 「健人さん、ほとんど食べてないじゃん」 「シュークリームを含めて、四個も食べました」 「四個しか食べてない」 「悠里は一生分のケーキを食べたんじゃないですか?」 「いや。一週間分くらいじゃない? まだまだ食べ足りないよ」  苦笑する。鼻から息を吸い込めば、甘ったるい匂いが体の中に入ってくる。悠里の手からシュークリームを食べるのに失敗し、鼻の穴にカスタードクリームが入ったせいだ。テーブルに頭を擦りつける勢いで謝られたから、蒸し返すつもりはないし、「ケーキバイキングデートの名残」と考えれば、悪くない気がしてきた。 「もうすぐ悠里の誕生日ですし、ケーキに飽きたと言われたらどうしようかと思ってましたよ」 「健人さん、俺の誕生日祝ってくれるんだ」  悠里が嬉しそうに目を細めた。 「当たり前です。誕生日にしてほしいことはありますか?」 「そうだなぁ。プレゼントはいらないから、健人さんの手料理が食べたい。メニューは任せる」 「分かりました」  何を作ったら喜んでもらえるだろうか。考えながら歩いていると、悠里が呟いた。 「あー、口直しにしょっぱいものが食べたい」 「まだ食べるんですか?」  思わず吹き出すと、悠里が真面目な顔でこちらを見た。 「甘いものを食べたあとは、しょっぱいもの食べたくなるでしょ? フライドポテト食べたい。……あっ、ちょうどいいところにハンバーガーショップが!」  悠里が道の先にある看板を指差す。 「白々しいですよ」  くすりと笑ったら、にらまれた。 「Lサイズのフライドポテト頼んでシェアしようと思ったけど、健人さんは食べちゃダメね」 「なんでですか!」 「お腹いっぱいなんでしょ?」 「そうは言いましたが、いらないとは言ってません。悠里、あんなに食べたあとにポテトまで食べたら、夕飯が入らなくなりますよ。僕も食べるのを手伝ってあげます」 「素直に『食べたい』って言えばいいのに」  悠里が呆れたようにため息をついた。悠里から目をそらす。僕の舌は、フライドポテトの塩味を思い出して、唾液を分泌しはじめていた。  悠里をからかった手前、フライドポテトを食べたいと言い出せず、とっさに言い訳したことが見透かされているのが恥ずかしかった。

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