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ショートケーキを召し上がれ 4

 横目で悠里を見ると、頷かれた。カスタードクリームの匂いがする空気を吸い込む。 「……僕も、しょっぱいもの食べたいです。僕にもポテトください」 「よくできました」  悠里がにっこりと笑った。「よくできました」は僕が悠里によく言っているセリフだ。言われるのは慣れておらず、体がむずむずした。 「そうと決まれば、店まで競走だ! 負けた方のおごりね」  言い終わる前に悠里がスタートダッシュを決めた。あっという間に背中が小さくなっていく。 「待ってくださいっ」  僕も走りはじめるが、ただでさえ普段から運動不足なのに、ケーキで重くなった体は、更にいうことを聞いてくれない。すぐに息が上がる。 「ずるいですよ、悠里が勝つに決まってるじゃないですか」  勝敗は最初から分かりきっているのだ。諦めて徒歩に切り替えると、悠里が振り返って叫んだ。 「健人さーん、早く来てぇ」  両手で手招きされて、胸が苦しくなる。  ――かわいい僕の恋人。早くそばに行きたい。  頑張って腕を振り、足を動かした。悠里が嬉しそうに笑い、また走りはじめた。悪くないかも、と思った。食後すぐに走ったから脇腹が痛い。顎が上がる。でも体で風をきる感覚は気持ち良かった。胸焼けするくらいケーキを食べて、ファストフード店に向かって恋人と競走する。馬鹿みたいな行動だけど、紛れもなく僕の青春だった。 「悠里!」  力を振り絞って叫ぶ。 「なあに?」  悠里はまだまだ余裕そうだ。 「好きです!」  ぴたりと悠里の動きが止まった。その隙に距離を詰め、息を切らしながら悠里の背中に抱きついた。 「やっと追いついた……」  距離を取ってから愛しい恋人の姿を見つめると、悠里が頬を染め、「こんなとこで叫ぶのは反則だよ」と呟いた。 「大丈夫です。車通りは多いですが、人は歩いてません。誰にも聞こえていないはずです」 「そういう問題じゃない……」 「悠里と一緒に行きたかったんです。だめ、ですか?」 「うっ。だめじゃないから、その目はやめて……」 「どんな目?」 「俺を誘うような目」  本当にどんな目なのか分からない、と思いながら、隣に並び、悠里の手を絡め取った。悠里が無言で僕を見返してくる。 「店に着くまで、いいですか?」  繋いだ手に視線を落として尋ねると、悠里が控えめな声で「うん」と言った。  結局勝負は引き分けとなり、フライドポテトは割り勘にした。

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