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ショートケーキを召し上がれ 5

  ※  六月十九日。悠里の誕生日当日を迎えた。平日なので、それぞれ授業を受け、夜にうちで会うことにしていた。  今日は朝起きた瞬間から落ち着かなかった。授業を受けている最中も、常に悠里のことで頭がいっぱいだった。悠里が好みそうな料理のレシピを調べ、一週間かけて練習を繰り返したし、食材はすべて昨日のうちに買ってある。ケーキは、ケーキバイキングに行った日の夕方に、近所の洋菓子店に電話をかけて予約した。心配事は何もないはずだった。それなのに、こんなにも不安でいっぱいなのはなぜなのだろう。  今日の分の授業が終わり、教授よりも早く教室を飛び出した。洋菓子店でケーキを受け取り、帰宅してエプロンを身につける。時刻は午後四時半。悠里が来るまであと二時間半。冷蔵庫から使う食材を取り出し、空いたスペースにケーキの箱をそっと入れた。  ――どきどきする。家族以外の誕生日など祝ったこともないから、正解が分からない。悠里は喜んでくれるだろうか。  不安を押し殺すように、玉ねぎのみじん切りから始めることにした。   ※  ハンバーグ、ポテトサラダ、唐揚げ、手作りのごまドレッシングをかけたグリーンサラダ、冷製コーンポタージュ。  ――サラダが二つになってしまった。ポテトサラダは炭水化物だから、グリーンサラダとは別物ということで、まあいいか。  コーンポタージュはスープカップによそい、他のおかずはワンプレートにした。大きな皿に少しずつ盛り付けたものを二人分作る。残ったものはテーブルの中心部におかわり用として置いておいた。ポタージュの残りは冷蔵庫に入れてある。食べ盛りの悠里のために、ご飯は四合炊いたし、おかずもいつもの倍以上作った。  テーブルに料理を並べたら、天板が見えなくなってしまった。重量オーバーで壊れてしまうかもしれない、と心配になる。  ――こんな風に、誰かのために何かを用意して待っているのは初めてかもしれない。  そう思った時に気がついた。今日の「そわそわ」と「どきどき」は、不安ではなくて、緊張なのだ、と。悠里に料理を食べさせたことは何度かある。しかし、前もって準備するというよりは、一緒に買い物に出かけ、その日の気分で献立を決める方法だった。料理している最中も悠里が隣にいて、簡単な作業は手伝ってくれていたのだ。今日みたいに、メニュー決めから買い物、料理まで一人きりなのは初めてだった。 『準備できてますよ。いつでも来てください』  六時四十五分。約束の時間より少し早いが、悠里にメッセージを送る。 『やったー! すぐ行く!』  すぐに返事が来た。楽しんでもらえるといいが。心臓が大きく脈打った。

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