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ショートケーキを召し上がれ 9
悠里がしかめ面でフォークを置いた。先ほどのキスから沈黙を貫いていた悠里が、ようやく言葉を発してくれた。
「ねえ、さすがにお腹いっぱい」
ケーキの三分の一が悠里の胃袋に収まっていた。
ご飯を四杯食べて、さらにケーキもこんなに食べたのだから、十分だろう。そう思うのに。
「やっぱり一人では食べられなかった……」
悠里は哀愁漂う表情で、残ったケーキを見つめていた。
「なにも今日一日で食べ切る必要はないんですよ? 今日泊まるんだから、残りは明日食べればいいんです」
ぱっと悠里の顔が輝いた。
「そっか! 健人さん、頭いい!」
「悠里はもっと頭を使った方がいいですよ」
こめかみを人差し指でトントンと叩いてみせると、悠里が目を三角にした。
「ひどい!」
――くるくる変わる表情は見ていて飽きない。好きだ。
「そんな悠里もかわいいです。箱どうぞ。これに入れて冷蔵庫にしまいましょう。僕は紅茶を入れ直してきます」
立ち上がるために足に力を入れたところで、悠里の手が太ももに押しつけられた。
すとんとソファにお尻が落ちる。何が起きたのか分からなくなっている僕の耳に、悠里の唇が触れた。
「紅茶なんか、あとでいいよ」
シャツ越しに、背骨をつうっとなぞられる。ぞわりとした感覚が、下から駆け上がってくる。
「や……」
きつく目を閉じた。
「俺の食事は終わったから、健人さんにケーキ食べさせてあげるね」
「だめ。それは悠里のですか、らっ!?」
顎をつかまれた。目を開けると、唇の右端だけをつり上げた悠里が見える。
「大丈夫。こうすればいいんだよ」
悠里がフォークを使ってケーキの上の生クリームをすくった。舌をべえっと出して、その中央にクリームをちょこんと乗せている。
僕の喉が鳴った。悠里は笑顔で僕に近づいてきた。唇が触れ、歯の間から悠里の舌が侵入してくる。うごめく舌が、僕の口内に生クリームを塗りつけていく。
「んっ……ふ……」
鼻で呼吸をすれば、苺の香りもほのかにした。
悠里が僕から離れた。
「ね、こうすれば俺が食べたことになるでしょ?」
妖 しく笑うから、深く考えずに頷くことしかできない。
――僕は絶対に悠里には勝てない。勝敗は勝負が始まる前から決まっているのだ。
ぼんやりとした頭の片隅で、そんなことを考えた。
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