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一生分のしあわせ 9
「あ……健人さん」
唇を離すと、熱っぽい瞳がこちらを向いていた。
「なんですか?」
「もっと、さっきみたいに、して」
「さっき?」
首を傾げると、悠里の目が泳いだ。
「あの、えっと……。もっと強く、激しく、してほしい」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、悠里が言う。
「そんなに良かったですか?」
「……うん」
悠里が小さく頷いた。僕の膝に、隆起したものを擦り付けてくるから、性欲に僕の全てを乗っ取られそうになる。だけど今日は僕の誕生日だから。この幸せな時を、一秒でも長く味わいたい。
「いやです。僕は悠里を大事にしたいんです」
悠里は、がっかりしたように口を結んだ。
「そんな顔、しないで。優しくはしますが、さっきよりも、もっともっと、気持ち良くしてあげますから。安心してください」
表情がぱっと明るくなって、それから真っ赤な顔を僕から背けた。
思わず声を漏らして笑ってしまう。
「かわいい。焦らして焦らして、気持ちいいことしか考えられなくなるくらい、ドロドロに溶かして差し上げます」
「お願い、します……」
もう一度キスしようと悠里に近づいた瞬間、アラーム音が鳴り響き、僕は飛び上がった。
「なんですか!?」
悠里がもぞもぞと布団から抜け出し、スマートフォンを操作しはじめた。音が止まる。
「二十三時五十九分のアラーム。日付変わる直前にも祝おうと思って。健人さん、お誕生日おめでとう」
僕の腕の中に戻ってきて、百点満点の笑顔を向けてくれる。でも、今じゃないだろう。笑顔は最高でも、タイミング的には最悪だ。
「悠里はいつも予測不能ですね……」
「ねえ、健人さん、覚えててね。今日、健人さんの誕生を最後に祝ったのは俺だよ!」
僕は苦笑いを浮かべているのに、悠里は嬉しそうに抱きついてくる。後ろでぶんぶんと動くしっぽが見えるようだ。ムードもへったくれもないが、なんだかこれが「僕たちらしい」ような気がしてきた。
「ありがとうございます。悠里のおかげで、最高の誕生日です。一緒に過ごせて幸せです」
ちゅ。わざと音を立てて悠里の耳たぶを吸った。
「これから一緒に、『最高』を更新していきましょうね?」
耳元で囁くと、期待するように悠里の体に力が入った。ゆっくりと布団に押し倒す。
「愛しています、悠里」
悠里の瞳の中に映った僕は、とても幸せそうな顔をしていた。
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