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一生分のしあわせ 10

  ※  物音で目を覚ますと、珍しく悠里が僕よりも先に起きて、部屋を歩き回っていた。 「あ、起こしちゃった?」  目が合うと悠里が申し訳なさそうに眉根を寄せた。 「いえ。大丈夫です。どこ行くんですか?」 「お風呂入ろうかと思って」  昨日使ったバスタオルを掲げて、僕に見せてくる。 「大浴場?」 「うん。一緒に行く?」 「……行きます」  少しためらったが、肯定の返事をして起き上がる。悠里が目を丸くした。 「え、ほんとに!?」  僕が同意するとは思っていなかったようだ。 「悠里が襲われないように監視しないと」 「そんな心配しなくても、俺のこと襲ってくるのは健人さんだけだよ」 「襲ってはいません。合意の上でのことでしょう?」 「……まあ、そうなんだけどさ」  悠里が恥ずかしそうに俯いた。 「健人さんと一緒にお風呂入れるようになって、嬉しいなぁ」 「入れるようになったというか……。まだ『悠里と同じお湯』と思うだけでむずむずしますけどね……」 「ムラムラの間違いじゃなくて?」  悠里が笑いながら僕をからかってくる。 「そんなこと言ってると、悠里が入ったあとのお風呂のお湯をくんで、味噌汁にして飲んでやりますよ?」 「なにそれ。怖すぎるしキモすぎる」  ドン引き、と悠里に距離を取られた。冗談のつもりだったのに、そこまで拒否されると少し悲しい。 「いやだったら、二度と言わないでください!」  ショックで声が大きくなってしまった。 「分かったよ……。ごめん」  眉を八の字にした悠里が頭をなでてくれる。心地よくて温かい気持ちに包まれた。 「許します」  なんてチョロいんだろう、と我ながら思う。悠里が笑顔で僕を抱きしめてくれた。

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