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嫉妬トライアングル 3

  ※  奥田さんは、駅で落ち合ってから「店あっちだから。着いてきて」と言ったきり黙っていた。半個室の居酒屋でテーブル席に向き合って座った僕たちは、生ビールを二杯頼んだ。結果はどうだったのだろう。自分から聞く勇気はなかった。着てきたシャツは右の袖口がほつれていた。その糸を左手でもてあそび、飲み物が来るのを待った。  ほどなくしてテーブルにビールが置かれる。二人で持ち上げ、「乾杯」とジョッキを鳴らした。  僕は二口ほど飲んですぐジョッキを置いてしまったが、奥田さんは、ごくごくと喉を鳴らして飲み込んでいく。どん、と音を立ててテーブルに戻されたジョッキは、中身が半分になっていた。ようやく奥田さんが声を発した。 「あー、フラれたフラれた。分かっててもショックなもんはショックだねー」  溜めていたものを一気に吐き出すように言って、頬杖をつく。  ――奥田さんがフラれた。ということは。僕はまだ悠里の恋人でいられる?  奥田さんを見つめると、苦笑された。 「今、ホッとしたでしょ」 「……はい。すみません」  目をそらす。 「ということは、悠里、あたしに告白されたこと、つのちゃんに言ってないんだね。優しいな、悠里は」 「はい。優しいです」  ――良かった。悠里は僕を選んでくれたんだ。  じわじわと安堵感が胸に広がり、あっと思った時にはもう泣いていた。  昨日の夜からずっと言葉にできなかった感情たちが、目からあふれ、顎を伝い、テーブルの上に水溜りを作っていく。 「ふっ……あ、っ……」  歯を食いしばるが、どうしても声が漏れてしまう。 「ちょっと、なんで泣くの!? 自分の立場分かってる? つのちゃんは悠里の恋人、あたしはフラれたの。あたしの方が泣きたいよ。なんであたしがつのちゃんを慰めなきゃいけないの? 逆でしょ、逆。もー、意味分かんない!」  奥田さんが怒った口調で僕を責めながらも、ポケットティッシュを投げてよこした。優しい。 「すびばせん」  ありがたく受け取って、涙を拭い、鼻をかむ。 「昨日、奥田さんから電話があった時、『僕がフラれる可能性もあるんだ』と考えてしまって。でも、悠里はちゃんと僕を選んでくれたから。嬉しくって……」 「なんだそれ。当てつけか」  ポケットティッシュがもう一個飛んでくる。油断していたせいで避けられず、鼻に直撃した。 「うっ、何個持ってるんですか……?」 「一ダース。いっぱい泣くつもりだったから、コンビニで買ってきたの。つのちゃんが先に泣き出すから、タイミング失っちゃったけどね」 「すみません」 「そんなことより、さっきの発言、何? 悠里のこと信じてなかったってこと?」  咎めるように言われ、首を横に振りかけて、やめた。

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