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嫉妬トライアングル 6
「ちょっと! なんか言いなさいよ!」
「す、すみません……」
凄まれてとっさに謝ってしまう。奥田さんが頭を抱え、盛大にため息をついた。
「いや、こっちがごめん。あたし、八つ当たりしてる。フラれる前提の告白だったはずなのに、思いの外ショック受けてんの。ウケるよねえ。つのちゃんも笑っていいよ」
「笑いませんよ。それだけ奥田さんが悠里に本気だったという証拠じゃないですか」
「つのちゃん、なんかムカつくけど優しいなあー」
「『なんかムカつく』は余計じゃないですか?」
奥田さんが頭を上げ、僕に向かって微笑んだ。と思った瞬間、奥田さんの顔がくしゃりと歪み、両目から涙があふれ出した。
「ムカつくなあー。あたしが慰めろって言ったんだけどさあ。悠里の恋人に慰められてると思うとムカつく」
ぽろぽろ泣きながら悪態をつくので、僕もため息をついてしまった。
「じゃあ、僕はどうすればいいんですか」
「余計な口は挟まないで、話を聞いてほしい」
「分かりました。とりあえず食べ物頼んでいいですか?」
「は? 人の話聞いてた?」
「はい。もちろんです。奥田さんは精神的に不安定になっているようです。これはお酒の影響でセロトニンが減少したためだと推察されます。セロトニンを増やすために効果的な食材は、赤身魚や赤身肉、レバーなどですが、食べたいものはありますか?」
メニューを差し出すと奥田さんがぽかんとした表情で僕を見ていた。
「どうしましたか。僕、何か変なことを言いましたか?」
ペラペラと喋ってしまった自分が今更恥ずかしくなって、眼鏡のブリッジに中指でそっと触れる。
「いや。つのちゃんって眼鏡だから賢そうだなとは思ってたけど、見かけだけじゃなくてちゃんと賢いんだなと思って」
「人を眼鏡で判断しないでください!」
奥田さんが涙目のまま口を開けて笑った。
「つのちゃんって、面白いんだね。ありがとう。おかげで泣き止んだわ。化粧直してくるから適当に頼んどいて。あたし、好き嫌いないから、つのちゃんが食べたいもの頼んでいいよ」
ポーチを鞄から取り出し、席を立ってしまった。メニュー表に目を落とす。「適当に」が一番困るんだけどな、と思いながら、酒のつまみになりそうなものを何品か見繕って注文した。
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