55 / 87
嫉妬トライアングル 9
「そんな顔しないでよ。あたしが悪者みたいじゃん!」
奥田さんが「ほら」とこちらによこしたスマートフォンには、写真が映っていた。スーツ姿の田丸さんと中学校の制服を着ている悠里のツーショットだ。両手で受け取り、拡大したり縮小したりして、まじまじと写真を見つめた。
「祝 卒業式」の看板が後ろに映っているから、おそらく中学校の卒業式の写真なのだろう。今よりもあどけない悠里の顔を見て、「かわいい」と口の中で唱えた。
ためつすがめつ写真を見て、しっかりと目に焼き付けてからスマートフォンを奥田さんに返すと、「もう一生戻ってこないのかと思った」と笑われた。
「売らないしデータも渡さないけど、たまに見せてあげるくらいならいいよ。悠里には内緒ね?」
「本当ですか!? ありがとうございます、ありがとうございます! 嬉しすぎてなんと言ったらいいか分かりません! 嬉しいっ」
スマートフォンを持つ奥田さんの手を右手で握り、ぶんぶんと上下に振ると、呆れ顔を向けられた。
「はあ、こんなに悠里のこと好きな人と初めて会った……。もしかして、あたしより好きなんじゃないの? つのちゃんと張り合う気、完全になくしちゃった。幸せにならないと許さないよ!」
「なんだかよく分かりませんが、分かりました。ありがとうございます。もう既に幸せですが、もっと幸せになります!」
「やっぱ腹立つ!」
ぺしん、と右手の甲をはたかれた。反射的に引っ込めて、左手でさする。
「もっときれいになって、悠里よりもいい男と付き合って、あなたたちよりも幸せになってやるんだから!」
「はい。頑張ってください。僕たちも負けません」
奥田さんが失笑した。
「とにかく、あたしが嫉妬するくらい幸せになってくれないと許さないから。あたしから悠里を奪った責任、ちゃんととってよね」
「奪ったつもりはないのですが……。もちろんです。僕が必ず、悠里を幸せにします。奥田さんも、僕が妬ましくなるくらい素敵な人と出会って、幸せな家庭を築いてください」
奥田さんがパチンと両手を合わせ、にっこりと笑った。
「よし、決めた。定期的に一緒に飲もう」
「僕と奥田さん、二人でですか?」
「うん。近況報告しあおうよ。つのちゃん、もっと真面目でかたい人なのかと思ってたら、意外と面白かったし。話しやすいし」
奥田さんと二人で飲むということは、その分悠里と一緒にいる時間が減るということだ。でも、今日みたいに、僕が知らない昔の悠里の話を聞くことができるかもしれない。
「……たまになら、いいですよ。悠里に嫉妬されないくらいたまになら」
目をそらして答える。
「一回につき、悠里の秘蔵写真一枚見せてあげちゃう」
奥田さんの言葉に、がばっと顔を上げた。
「やりましょう、毎日でもやりましょう」
身を乗り出し、早口で奥田さんに迫ると、奥田さんが声を上げて笑った。
「嫉妬されるどころか、悠里に浮気疑われるよ? それでもいいの?」
我に返り、椅子に背中を預けなおした。
「ぜったいだめです」
「でしょ? あたしも毎日つのちゃんと飲んでたら彼氏できないし、半年に一回とかにしようよ。つのちゃんたちの帰省のタイミングとか、あたしがそっちに行ってもいいし。まあ、また連絡するね」
ともだちにシェアしよう!