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嫉妬トライアングル 9

「そんな顔しないでよ。あたしが悪者みたいじゃん!」  奥田さんが「ほら」とこちらによこしたスマートフォンには、写真が映っていた。スーツ姿の田丸さんと中学校の制服を着ている悠里のツーショットだ。両手で受け取り、拡大したり縮小したりして、まじまじと写真を見つめた。  「祝 卒業式」の看板が後ろに映っているから、おそらく中学校の卒業式の写真なのだろう。今よりもあどけない悠里の顔を見て、「かわいい」と口の中で唱えた。  ためつすがめつ写真を見て、しっかりと目に焼き付けてからスマートフォンを奥田さんに返すと、「もう一生戻ってこないのかと思った」と笑われた。 「売らないしデータも渡さないけど、たまに見せてあげるくらいならいいよ。悠里には内緒ね?」 「本当ですか!? ありがとうございます、ありがとうございます! 嬉しすぎてなんと言ったらいいか分かりません! 嬉しいっ」  スマートフォンを持つ奥田さんの手を右手で握り、ぶんぶんと上下に振ると、呆れ顔を向けられた。 「はあ、こんなに悠里のこと好きな人と初めて会った……。もしかして、あたしより好きなんじゃないの? つのちゃんと張り合う気、完全になくしちゃった。幸せにならないと許さないよ!」 「なんだかよく分かりませんが、分かりました。ありがとうございます。もう既に幸せですが、もっと幸せになります!」 「やっぱ腹立つ!」  ぺしん、と右手の甲をはたかれた。反射的に引っ込めて、左手でさする。 「もっときれいになって、悠里よりもいい男と付き合って、あなたたちよりも幸せになってやるんだから!」 「はい。頑張ってください。僕たちも負けません」  奥田さんが失笑した。 「とにかく、あたしが嫉妬するくらい幸せになってくれないと許さないから。あたしから悠里を奪った責任、ちゃんととってよね」 「奪ったつもりはないのですが……。もちろんです。僕が必ず、悠里を幸せにします。奥田さんも、僕が妬ましくなるくらい素敵な人と出会って、幸せな家庭を築いてください」  奥田さんがパチンと両手を合わせ、にっこりと笑った。 「よし、決めた。定期的に一緒に飲もう」 「僕と奥田さん、二人でですか?」 「うん。近況報告しあおうよ。つのちゃん、もっと真面目でかたい人なのかと思ってたら、意外と面白かったし。話しやすいし」  奥田さんと二人で飲むということは、その分悠里と一緒にいる時間が減るということだ。でも、今日みたいに、僕が知らない昔の悠里の話を聞くことができるかもしれない。 「……たまになら、いいですよ。悠里に嫉妬されないくらいたまになら」  目をそらして答える。 「一回につき、悠里の秘蔵写真一枚見せてあげちゃう」  奥田さんの言葉に、がばっと顔を上げた。 「やりましょう、毎日でもやりましょう」  身を乗り出し、早口で奥田さんに迫ると、奥田さんが声を上げて笑った。 「嫉妬されるどころか、悠里に浮気疑われるよ? それでもいいの?」  我に返り、椅子に背中を預けなおした。 「ぜったいだめです」 「でしょ? あたしも毎日つのちゃんと飲んでたら彼氏できないし、半年に一回とかにしようよ。つのちゃんたちの帰省のタイミングとか、あたしがそっちに行ってもいいし。まあ、また連絡するね」

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