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15センチではないけれど 6
「こんなことなら、もっと早く告白しておけば良かったな」
――どうしてあの子なの? わたしはずっと角巻くんの隣で、支えてきたじゃない。
「貴重な青春時代を無駄にしちゃった」
「西川さんが僕を好意的に思ってくれていることには気づいていました。でも、こんな僕に恋愛感情を抱いているとまでは思わず……。無意識のうちにたくさん傷つけてきましたよね? 申し訳ありませんでした」
涙が溢れそうになる。角巻くんが苦しげに眉を寄せる。わたしは、目元に滲んだ涙を押し戻すように、両手で目を覆った。
――いまさら、そんな顔しないでよ。意識してたのはわたしだけだったなんて、悔しい。
「角巻くんがゲイだって知ってたら、こんなに長く片思いする必要もなかったのに」
言ってしまってから後悔した。角巻くんの気持ちを考えず、自分勝手な感情をぶつけているだけだ。
――最低だ、私。
「違いますよ」
はっきりとした角巻くんの声が聞こえて、顔を上げる。角巻くんが澄んだ瞳でわたしを見つめていた。
「僕はゲイではありません。異性愛者です」
「でも、男の子と付き合ってるんでしょ?」
「そうなのですが、悠里は悠里だから好きなんです。悠里が男だから好きなわけではありません」
あまりにもきっぱりと言い切るから、胸にグサグサ刺さった。
「やめてよ……。女は恋愛対象じゃないんだな、だからわたしじゃダメだったんだなって思わせておいてよ。それって、わたしがあの子に負けてるってことじゃん。余計傷つくよ」
つらかった。わたしの長い片思いが、こんな形で終わりを迎えるなんて予想もしていなかったぶん、苦しくて、角巻くんに当たってしまう。
「すみません。でも、そんなつもりで言ったわけではないんです」
涙はこぼれていないのに、角巻くんがポケットティッシュを差し出してくる。
「ありがとう」
お礼を言って受け取った。
角巻くんは、こんな時でもわたしを気遣ってくれるのだ。角巻くんがモテるのは、容姿が整っているせいもあるけれど、優しいからなのだろうなと思う。最近特に優しくなったと感じていたのは、あの子と付き合い始めたからなのだろうか。胸が痛んだ。
「ねえ、角巻くん。異性愛者だって言うなら、わたしがもっと前、たとえば高校時代に告白してたら、わたしと付き合ってくれた?」
声が震えた。だけどまっすぐに角巻くんを見つめる。角巻くんも、きちんとわたしと向き合ってくれた。
「申し訳ありませんが、それはありえません。悠里に出会う前の僕は心を閉ざしていましたから、誰とも付き合わなかったと思います。これは、西川さんの魅力とは無関係のところです。西川さんに魅力がないから断っているわけではないんです。言い訳がましくてすみません。悠里は、頑なに心を閉ざしていた僕の中にずかずかと踏み込んできて、強引に外に連れ出してくれた人なんです。はじめは不快に思いましたが、徐々に惹かれていきました。ありのままの姿を見せても、離れていかなかったから。初めて誰かに自分を認めてもらえたような気がしました。悠里に出会わなければ、今の僕はいません。だから僕は、過去も現在も未来も、西川さんとは付き合えません。本当に申し訳ありません」
深く頭を下げられた時、不思議と清々しい気持ちになった。
自分なりに頑張ってきたつもりだった。でも、角巻くんには響かなかったのだ。
完敗だ、と思った。
「分かった。きっぱり振ってくれてありがとう。引き留めてごめん。あの子のところに行ってあげて」
顔の筋肉を動かして、笑顔を作って見せる。
「ありがとうございます。そして、本当にごめんなさい」
角巻くんが、もう一度頭を下げてから、学食に向かって駆け出した。
その背中を見ながら、呟く。
「ばいばい、わたしの片思い」
「なんだそのドラマみたいなセリフ」
今まさに思っていたことが、自分以外の人の声で再生されたから驚いた。振り向くと、そこには山下くんが立っていた。
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