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15センチではないけれど 7

「いつからいた?」  少し焦って尋ねると、山下くんが頭を掻いた。 「今来たとこ。酔い覚ましに散歩してたら二人を見つけて、こっちに来てみたんだけど、健人が急に走り出したからびっくりして。喧嘩でもした?」  わたしは首を横に振った。 「ううん。角巻くんは恋人を追いかけていったの」 「恋人? 健人は夢乃ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」  こくんと頷く。 「違うよ」 「そっか」  山下くんがため息をつくように言った。ベンチを回り込み、わたしの隣――さっきまで角巻くんが座っていた場所に腰を下ろした。 「ごめんな」  山下くんは笑顔を浮かべていたけれど、わたしには今にも泣きそうに見えた。 「どうして謝るの?」 「一年生の時、初めて夢乃ちゃんと健人に会った時さ、すごくお似合いだなって思ったんだ。まとう雰囲気もなんとなく似てる気がして、でもすごく親密そうなわけでもなくて。てっきり、二人は両思いなのに、お互い踏み出せずにいるんだと思ってた。だから、気をきかせたつもりで、いろいろ二人に仕事を頼んでたんだ」  山下くんが悔しそうに唇を噛んだ。確かに、わたしたちをコンパ係に推薦したのは山下くんだった。  今まで二人で買い物に行ったり、二人きりで話したりできたのは、山下くんのおかげだったのだ。 「この前健人が『恋人ができた』って言った時、やっと夢乃ちゃんと付き合い始めたんだと思い込んでた。本当にごめん」  最後の言葉と同時に、わたしに向かって頭を下げる。身長が高いのに、座っているわたしの膝の位置までこうべをたれるから、山下くんがどれだけ後悔しているのか、痛いほど伝わってきた。 「やめてよ。勘違いしてたのはわたしも同じなんだから」  ゆっくりと顔を上げる山下くん。傷ついたような、驚いたような、納得したような、複雑な表情をしていた。 「わたしも、両思いかもしれないって思ってたよ。角巻くんは、他の人といる時より、わたしといる時の方が表情豊かだって思ってた」  一旦言葉を区切って、息を吐き出す。走り去る角巻くんの背中が脳裏に浮かんだ。時間を巻き戻すように、いろんな表情が思い起こされる。  わたしといるところを恋人に見つかった時の絶望的な顔。そのあとわたしに見せた悲しげな笑み。学食で恋人に手を振っている時の幸せそうな顔。それをわたしに見られていたと気づいた時の真っ赤に染まる体と泳ぐ目。  鼻の奥がツンと痛んだ。わたしは大きく息を吸い込んだ。 「でもわたし、角巻くんのあんな顔、見たことない。角巻くんが好きな人を見る時の顔、初めて見た。わたしには向けられたことがない表情だった。両思いかもって思ってたのは勘違いだったんだなって、今日やっと気づいたの。なんでこうなっちゃうんだろうなぁ。こんなに誰かのことを好きになったの、初めてなのに……」  涙が出そうになって俯くと、山下くんの手がわたしの両肩をつかんだ。顔を上げる。力強い二つの瞳が、わたしを見下ろしていた。 「俺じゃだめか? 俺、健人ほどかっこ良くないけどさ、夢乃ちゃんを思う気持ちは負けないと思う」

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