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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 2

  ※ 「飲みたいものや、食べたいものがあったら、何でもカゴに入れてくださいね」  悠里の誕生日当日。スーパーに来た時、確かにそう言った。だけどこれは入れすぎではないだろうか。  カートに乗せたカゴをまじまじと見つめる。  缶、瓶、紙パック。お酒だけで十種類はあるだろうか。その他に氷やアイスクリーム、ピザ、冷凍ポテトなんかも入っている。 「健人さん、これ美味しそう! 牛乳で割って飲むんだって」  そう言って悠里が持ってきたのは、カルーアの瓶だった。 「こんなに飲むんですか? 僕もそこまでお酒に強いわけではありませんので、消費しきれませんよ」 「だってちょっとずつ味見してみたいじゃん。明日は日曜だし、少しくらい飲みすぎてもいいでしょ? そもそも今日で全部飲み切るつもりはないから、大丈夫だよ」  悠里の言葉に押され、何も品物を戻すことなくレジの列に並んだ。 「待って。俺が並ぶ」 「どうしたんです?」 「ふっふっふ。俺には特別なカードがあるからね」  悠里が自慢げに財布から取り出したのは、学生証だった。 「それがどうしました?」 「俺、自分でお酒を買いたい」  つまり、悠里はレジで年齢確認されたいらしい。 「なるほど」 「健人さんと一緒だと何も聞かれないかもしれないから、離れてて」 「じゃあ、これ使ってください」  悠里の手に一万円札を三枚握らせる。悠里の目が戸惑いに揺れた。 「誕生日の人にお金を払わせるわけにはいかないでしょう?」  列が進んだ。僕たちの前には一組。会計中の男性は弁当とお茶だけだから、すぐに済みそうだ。 「ありがとう。お釣りは返すね」  悠里がひらっと一万円札を振った。僕は頷いて、列から離れる。サッカー台で待ち構えることにしよう。   ※  会計を終えた悠里は、あからさまにがっかりした顔をしていた。 「どうしたんですか?」 「年齢確認(ネンカク)されなかった! すぐ出せるように、学生証をずっと握ってたのに」  そのせいじゃないですか、身分証をこれ見よがしに掲げていたら、「この人は年齢確認されても構わないと思っているのだ、つまり二十歳以上だ」と思われるだけでしょう、と言いそうになるが、ぐっと堪えた。 「大学生がよく利用するスーパーですからね。お店の人も慣れているんじゃないですか?」 「うー。『今日誕生日なんでハタチです。合法です。ドヤっ』てしたかったー」  やはり悠里は、何歳になったってかわいらしい。 「すみません。身分証見せてもらえますか?」  緩む表情筋を必死に引き上げて真面目な顔を作り、問いかけると、悠里がきょとんとした顔をした。でも一瞬で意図を察したのか、学生証を印籠のように突き出してきた。 「見てください。今日誕生日です」 「はい。確認しました。誕生日おめでとうございます」 「へへっ、ありがとうございます。へへっ」  とんだ茶番だが、悠里が喜んでいるから良しとする。 「年齢確認は済みましたから、大切な学生証は早くしまってください。うちに帰りますよ」  財布に学生証を収めた悠里に買い物袋を差し出すと、にやにやしたままお酒を詰めていった。僕との疑似的な年齢確認がそんなに嬉しかったのか。悠里に気づかれないように、こっそり笑った。

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