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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 3

  ※  テーブルの上に料理を並べ、グラスにビールを二人分注いだ。 「本当に飲むんですね?」  念押しすると悠里がムッとした顔で頷いた。 「飲むって言ってるじゃん。俺だって二十歳だし。オトナだし」 「ブラックコーヒーも飲めないのですから、ビールも苦手なんじゃないですか?」 「は? コーヒーは飲めるようになったし」  悠里がグラスをつかんで、一気にビールをあおった。そして、顔をしかめ、舌をべえっと出した。眉間にしわが寄っている。 「そういえば俺、そもそも炭酸苦手なんだった」 「馬鹿なんですか?」  呆れて笑うと、悠里が僕をにらんできた。 「バカって言うな! 誕生日なのに!」 「はいはい。おめでとうございます」  空になった悠里のグラスに、サングリアを注いであげた。鼻をひくひくさせてにおいを嗅ぐ悠里が、小動物みたいで抱きしめたくなる。 「これは?」 「ワインに果実やスパイスを加えたお酒です。飲みやすいと思いますよ」  恐る恐る一口含んだ悠里が、にっこり笑った。 「美味しい」 「良かったです。空きっ腹にアルコールは体に悪いので、料理も食べてくださいね」  塩コショウを振って焼き、サイコロ状に切った牛肉を差し出すと、悠里が嬉しそうに頬張った。   ※ 「かるーあみるくおいしい!」  料理もお酒も進み、悠里の呂律が回らなくなってきた。 「おかわり!」  僕にグラスを差し出してくるので、その手をやんわりと押し返した。 「もうそれくらいにしたらどうです?」 「やあだ。もっと飲むー」  ソファの上で、手足をバタバタさせてただをこねる。二十歳にしては幼すぎる。ため息をついた。 「べろべろじゃないですか。ほら、お水飲んで」  悠里のグラスを奪い取り、ペットボトルから水を注ぐが、悠里は首を横に振った。 「お水やだあ。健人さんがいい」  悠里が僕の膝に頭を乗せてきた。驚いて見つめていると、にいっと笑った悠里が腕を伸ばしてきて唇を奪われた。手から離れたグラスが床に落ち、カーペットを濡らした。不意打ちを喰らい、固まる。 「やったー、健人さん赤くなった。かわいい。好きぃ」 「馬鹿。からかわないでください」  目をそらす。悠里が急に起き上がり、両肩に手を当てられた。僕の体が傾く。 「え? あっ、ちょっと! 悠里っ!?」  気づいた時には、悠里のとろんとした瞳が僕を見下ろしていた。唇をぺろりと舐める仕草が艶やかで、ごくりと生唾を飲み込んだ。僕は今、ソファの上で悠里に組み敷かれている。意識した途端、身体が熱をもった。 『健人さんなら俺が何しようと、ちゃんと介抱してくれそうだし』  悠里の言葉が脳裏をよぎる。こんなに酔っ払っているのだから、きっと明日は何も覚えていないだろう。そんな人相手に、本気になるわけにはいかない。 「やめてください」  手を伸ばして悠里を押し返そうとした。だが、両手首をつかまれる。悠里が、僕をソファに押し付けるように、体重をかけてきた。  ちゅうっと唇を吸われる。

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