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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 4
「けんとさん、おいしい」
悠里がぺろぺろと僕の口の端を舐める。美味しいということは、食べかすでも付いていたのだろうか。恥ずかしい。
「カルーアおいしかったから、けんとさんのミルクも――」
「やめなさい」
良くないことを言いそうだったので、悠里の口を自分の唇でふさいだ。
悠里がくつくつと笑う。
「しよ?」
何を、とは聞かなくても分かった。ここまでお膳立てされているのに手を出さないのは、逆に悠里に失礼なのでは? 酔いが回った頭で考える。
「いいよ」
目を合わせて答えると、悠里の唇が弧を描いた。悠里が僕の後頭部に両手を添える。キス。舌をねじ込まれたのでそれにこたえていると、突然悠里が動かなくなった。
――キスしすぎた!? 酸欠?
驚いて、悠里に足を絡ませ、横向きに転がる。
「悠里、大丈夫ですか? 息してますか!?」
肩をたたいて揺すってみると、悠里の口がわずかに動いた。良かった、生きてはいるみたいだ。ほっと一息をつくと、すうすうという寝息が聞こえてくるのに気づいた。
「え? は?」
悠里の顔をまじまじと見つめる。
「急に寝た? キスの最中に? そんなことあります?」
軽く悠里の頬をたたいてみるが、起きる気配はない。
「おーい。ゆうりー?」
無反応。規則正しく悠里の肩が上下するのを見て、大きな大きなため息が出た。
「……ほんっとうに君って人は! 天然無自覚焦らし魔!」
ソファから起き上がり、悠里に回復体位をとらせることにした。左半身を下にして寝ている悠里の右手を持ち上げ、手の甲に顎が乗るように調整する。右脚を直角に曲げて左脚の前に出した。これで、万が一寝ながら嘔吐しても喉につまらせることはないだろう。
仕上げに薄手の毛布をかけると、悠里はわずかに身じろぎしたが、目が開くことはなかった。
気持ち良さそうに眠る悠里を見下ろし、再びため息をつく。
「これ、どうしてくれるんですか?」
ほてる体を持て余し、僕は頭を抱えた。
――ギンギンに冴えている。もちろん、目のことだけど!? 変な意味じゃないけど!?
はあ、僕は誰に言い訳してるんだろう。悠里から離れ、部屋の隅にあるベッドの上で体育座りをする。
ムラムラした気持ちをどう処理したら良いのか、僕は考えあぐねていた。とりあえずスマートフォンを取り出し、可愛い動物の動画を見て気を紛らわすことにする。
大型犬が頭をわしゃわしゃと撫でられ、飼い主をべろべろ舐めまわしているのを見て、悠里とのキスを思い出してしまった。
下半身が重くなるのを感じる。奥歯を噛みしめた。
悠里のせいで僕はこんなになってしまったのに、なぜ当の本人はすやすやと眠っているのか。納得いかない。入ってしまったスイッチは、なかなか切ることができない。
「ばーか、ばーか」
悠里に聞こえるくらいの声量で、とても幼稚なことを言ってしまったが、悠里は寝返り一つ打たない。熟睡しているのだろう。僕を放置して、とても気持ち良さそうに寝息を立てる悠里を見ていると、ムカムカとムラムラがおさまらなくなる。
「悠里の馬鹿っ!」
勢いよく布団を頭からかぶり、ベッドの上で丸まった。目が冴えて、すぐには眠れそうもなかった。
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