72 / 87

酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 4

「けんとさん、おいしい」  悠里がぺろぺろと僕の口の端を舐める。美味しいということは、食べかすでも付いていたのだろうか。恥ずかしい。 「カルーアおいしかったから、けんとさんのミルクも――」 「やめなさい」  良くないことを言いそうだったので、悠里の口を自分の唇でふさいだ。  悠里がくつくつと笑う。 「しよ?」  何を、とは聞かなくても分かった。ここまでお膳立てされているのに手を出さないのは、逆に悠里に失礼なのでは? 酔いが回った頭で考える。 「いいよ」  目を合わせて答えると、悠里の唇が弧を描いた。悠里が僕の後頭部に両手を添える。キス。舌をねじ込まれたのでそれにこたえていると、突然悠里が動かなくなった。  ――キスしすぎた!? 酸欠?  驚いて、悠里に足を絡ませ、横向きに転がる。 「悠里、大丈夫ですか? 息してますか!?」  肩をたたいて揺すってみると、悠里の口がわずかに動いた。良かった、生きてはいるみたいだ。ほっと一息をつくと、すうすうという寝息が聞こえてくるのに気づいた。 「え? は?」  悠里の顔をまじまじと見つめる。 「急に寝た? キスの最中に? そんなことあります?」  軽く悠里の頬をたたいてみるが、起きる気配はない。 「おーい。ゆうりー?」  無反応。規則正しく悠里の肩が上下するのを見て、大きな大きなため息が出た。 「……ほんっとうに君って人は! 天然無自覚焦らし魔!」  ソファから起き上がり、悠里に回復体位をとらせることにした。左半身を下にして寝ている悠里の右手を持ち上げ、手の甲に顎が乗るように調整する。右脚を直角に曲げて左脚の前に出した。これで、万が一寝ながら嘔吐しても喉につまらせることはないだろう。  仕上げに薄手の毛布をかけると、悠里はわずかに身じろぎしたが、目が開くことはなかった。  気持ち良さそうに眠る悠里を見下ろし、再びため息をつく。 「これ、どうしてくれるんですか?」  ほてる体を持て余し、僕は頭を抱えた。  ――ギンギンに冴えている。もちろん、目のことだけど!? 変な意味じゃないけど!?  はあ、僕は誰に言い訳してるんだろう。悠里から離れ、部屋の隅にあるベッドの上で体育座りをする。  ムラムラした気持ちをどう処理したら良いのか、僕は考えあぐねていた。とりあえずスマートフォンを取り出し、可愛い動物の動画を見て気を紛らわすことにする。  大型犬が頭をわしゃわしゃと撫でられ、飼い主をべろべろ舐めまわしているのを見て、悠里とのキスを思い出してしまった。  下半身が重くなるのを感じる。奥歯を噛みしめた。  悠里のせいで僕はこんなになってしまったのに、なぜ当の本人はすやすやと眠っているのか。納得いかない。入ってしまったスイッチは、なかなか切ることができない。 「ばーか、ばーか」  悠里に聞こえるくらいの声量で、とても幼稚なことを言ってしまったが、悠里は寝返り一つ打たない。熟睡しているのだろう。僕を放置して、とても気持ち良さそうに寝息を立てる悠里を見ていると、ムカムカとムラムラがおさまらなくなる。 「悠里の馬鹿っ!」  勢いよく布団を頭からかぶり、ベッドの上で丸まった。目が冴えて、すぐには眠れそうもなかった。

ともだちにシェアしよう!