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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 6

「万全な状態になったらシてくれるの?」  悠里がにやにや笑うのを見て、恥ずかしさが爆発した。 「もう喋らないでください! 悠里が余計なことばかり言うから、朝食が作れないじゃないですかっ!」 「健人さんかわいいなあー。ごめんね、昨日の俺が中途半端なまま寝ちゃってさあ」  悠里が変な笑い方をするからカッとなった。 「うるさい、馬鹿! 今すぐ部屋に戻れ!」  強い言葉を発してしまったことを後悔したが、予想に反して悠里は嬉しそうに顔をほころばせた。 「健人さんの命令口調、すごく貴重。興奮する。大好き」 「はあ!? 罵ってるのに喜ばないでください! まだ酔っ払ってるんですか? ちょっと、抱きつかないで! 離れろ、馬鹿!」  耳元でふふふと笑う悠里に熱い身体を押し付けられ、腰に指を這わされて、力が抜けそうになる。  ――やばい、本当にもたないかもしれない。 「今すぐ離れてください。そうでないと僕は、悠里を嫌いになります」  やっと体を離してくれてほっとする。傷つけてしまったかもと不安になって悠里の顔を見れば、余裕そうな笑みを浮かべていた。 「健人さんは俺のことを嫌いになんてならないよ。絶対」 「その自信はどこからくるのか教えてください」  こんなに素直じゃなくて、思っていることと正反対なことばかり言ってしまう僕のことを、悠里は受け入れてくれるから。僕は君から離れられない。 「顔にかいてある」 「悠里にだけは言われたくありません」 「健人さん。ずっとそばにいてね」 「……不意打ちはずるいですよ」  熱くほてったまま冷めない身体を抱えて、僕は悠里に背を向けた。鍋に火をつけようと一歩前に踏み出すと、手をつかまれ、後ろに引き寄せられた。首筋に悠里の唇が落とされる。震えた。  もう無理だと思った。このまま悠里に流され、欲におぼれていくのだ。そう覚悟を決めたのに――。重心が急激に下がり、僕はバランスを崩しそうになる。 「ごめ……急にきもちわる……」  慌てて振り向くと、真っ青な顔で悠里がしゃがみ込んでいた。

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