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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 7

「はあっ!? また寸止めっ……というか、え、ちょ、待って。ここで吐かないで! トイレまで我慢して!」  うずくまる悠里をなんとかトイレまで引っ張り、便器に頭を突っ込んでやる。ギリギリ間に合ったようだ。えずく悠里の背中をさすりながら言い放った。 「悠里は今後一切お酒を飲んではいけません!」  叱られた犬のように、悠里の背中がびくりと震えた。丸まった尻尾が見えたような気がして、つい頬が緩みそうになってしまう。頭を振って気を引きしめる。  ――僕は怒っているのだ。この「天然無自覚焦らし魔」め! 「少しもだめ? また健人さんと飲みたい……」  胃液で喉を痛めたのか、悠里が掠れた声で呟く。 「……今度はちゃんとセーブしてくださいよ?」  あるはずのない悠里のしっぽがぶんぶんと動くのが見える。やはり僕は悠里には敵わないのだ。何をされてもすぐに許してしまう。こんなに情けない姿を見せられても、愛しい気持ちは消えるどころか増すばかりだ。  僕はすでに悠里におぼれてしまっているのかもしれない。悠里がいない人生なんて、もう考えられない。 「さっきの続きですが、ずっとそばにいますよ。こんなに手のかかるの隣にいられるのは僕くらいですからね」 「う、るさい。おっさん」  「子」を強調すれば、悠里が悪態をつく。  出会ってすぐの頃、問題が解けるようになった悠里を「やればできる子」と褒めた時に返ってきた、「俺が子供だとしたら、先生はおっさんだからな!」という言葉。  あのやりとりを悠里も覚えていてくれたということか。嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。 「二歳しか変わりませんよ」  ゆるゆると力が抜けていく頬の代わりに、手に力を込めて悠里の背中をたたくと、ばしんという小気味良い音がした。 「いてっ! あたまぶつけた。べんざにっ!」 「ずいぶん元気ですね。そんなに大声を出せるほど回復しましたか」  悠里が頭をさすりながら起き上がる。僕はトイレのレバーを回して水を流した。 「水を持ってくるので、口をゆすいでください。そのあときちんと水分補給してくださいね」  僕はトイレから出て、水を注いだマグカップを悠里に渡すと、風呂掃除に取り掛かった。

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