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寄り添う体温 2

  *  ある土曜日の夕方、俺は健人さんのアパートで健人さんの帰りを待っていた。今日は、顧問をしている卓球部の遠征があって遅くなると言っていた。  ――夕食、どうしようかな。  僕のことは気にしないで自由に食べていてくださいと言われたものの、疲れて帰ってくる健人さんのために、何かしてあげたい気持ちがあった。  ――そうだ、スープを作ろう。  最近俺がはまっているミネストローネを作ろうと思った。ひたすら野菜を刻んでいると無になれるし、美味しいし、体に良い。財布とエコバッグを持ち、スーパーに出かけることにした。スープ以外は作る時間がなさそうだから、惣菜を買って来よう。 『ミネストローネ作ったよ。気をつけて帰ってきてね』  メッセージを送ると、即座にスタンプが返ってきた。うさぎが号泣しながら土下座している。 「これ、どういう感情?」  思わず吹き出してしまった。 『ありがとうございますすぐにかえりますすきですあいしてる』  続いてひらがなだけのメッセージが届く。変換する時間も惜しいほど早く俺に伝えたかったのだろうか。自惚れかもしれないけどすごく嬉しくて、一人で「へへ、へへ」と気持ち悪い笑い方をしてしまった。 『ゆっくり事故がないように帰ってきてね。好きだよ、健人さん』  今度はうさぎが仰向けに横たわり、口から魂が抜けているスタンプが送られてきた。 『だめだめ、生きて帰ってきて!』  何気ないやりとりだが、心が満たされていく。何年経っても健人さんが好きだし、それは幸せなことだと思う。 「早く帰って来ないかなあ」  俺の独り言は、静かなキッチンによく響いた。

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