7 / 99

第1章 7

 目覚めたとき、自宅のベッドの上にいるにも関わらず違和感を覚えた幸村はガバっとその体を起こした。 「おい!おま……つあぁぁ!頭痛え!」  隣に眠る男を叩き起こそうとしたのだが、起き上がったその瞬間に強烈な頭痛を感じて頭を押さえた。 「うるさいな……なによ。幸村さん」  夏野は目を擦りながら眠そうな声を出した。 「なによじゃねぇよ……。お前、人ん家で何してんだよ」 「え?あぁ、何?覚えてないの?全く、大変だったんだよ。ベロベロになった幸村さん、ここまで運ぶの。住所も言えないから免許探して……」 「だとして、何でお前までうちにいるんだよ」 「俺の家遠いんだよ。いい場所にあるのね、幸村さん家は」  「だからって……あぁ、くそ、頭痛ぇ。どんだけ飲んだんだよ」  文句を言おうとしても二日酔いで頭が回らず、幸村は這うようにベッドを降りて、冷蔵庫から取り出したペットボトルに直接口をつけて水を飲んだ。 「幸村さん、それ俺にもちょうだい」 「しょうがねぇな。コップが……」 「そのままでいいよ。投げて。あ、もしかして間接キス気にしてる?昨日あんなに激しかったのに?」  その言葉に幸村はピタリと動きを止めた。振り返ると、床には昨日履いていたチノパンが落ちており、今の彼はTシャツと下着しか身に着けていなかった。 「……は?お前、何言って……」  ゆっくりと視線を上げていくと、引き締まった裸の上半身と、真っ直ぐ自分を見つめる夏野の意味深な表情が目に入る。 「……朝陽(あさひ)」  下の名前を呼ばれ、鋭く光るその瞳を見た瞬間、ぞくり、と背筋が寒くなるような感覚がして、幸村は言葉を失い立ち尽くした。 「それも忘れたわけ?思い出せよ。ちゃんと、俺にされたこと全部。……後ろ、まだ痛いんだろ?」  夏野の言葉は脳に直接響くように聞こえ、暗示を掛けられたかのように、今まで何も感じていなかったはずの尻の辺りにむず痒い違和感を覚える。  ――まさか、本当に俺は、昨日会ったばかりのこいつと……。  嫌な汗がこめかみを伝うのを感じたその時、夏野の顔がクシャッと歪むと、腹を抱えて笑い出した。 「あはは!幸村さん、ほんと面白いな。なんて顔してんだよ」  その様子を見た途端、まるで止まってしまった心臓が突然動き出したかのように、全身が一気に熱くなった。からかわれたことを理解した幸村は、涙を流して笑う顔を目掛けてペットボトルを投げつけるとそっぽを向いた。 「痛っ」 「うぜぇな、さっさと出てけ」  夏野の真剣な眼差しに緊張してしまった自分が恥ずかしくなり、幸村は逃げるようにトイレへ立った。

ともだちにシェアしよう!