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第2章 8

 日曜日は早朝からゴルフに出掛けていた。先輩の田代の車が幸村の住むマンションの前に着いた時、時刻は既に18時半を回っていた。事故による渋滞のせいで想定よりも帰宅が遅くなってしまい、車の中から何度か夏野にメッセージを送ったのだが、相変わらず返信はなかった。  きっと拗ねているのだろう。機嫌をとるためコンビニで甘いものでも買おうかと考えたが、今晩も夏野を連れて食事に行こうと思い直して真っすぐ自宅へ向かう。  玄関を開けると、廊下に座り込む夏野の姿はなかった。その代わり、廊下の途中にあるコンロの上にはフライパンが置かれている。一人暮らしを始めたばかりの頃に張り切って買った安物のフライパンで、数年間使われることなく戸棚の中に放置されていたものだ。さらに、その隣には鍋も立て掛けてある。  ――昼飯で使ったのかな。料理できるなら俺の分も作ってくれりゃいいのに。  そう思いながら洋室の扉を開ける。 「夏野、遅くなって――」  ほとんど日が沈み、薄暗くなった部屋の中、テレビの前のいつも布団を敷いてやる場所で、夏野は猫のように丸くなって眠っていた。  幸村は電気を付けるため壁に伸ばしていた手を下ろし、そっと足音を忍ばせて夏野の隣にしゃがむ。  声を出さずに「ただいま」と口だけ動かして、顔に掛かる柔らかな胡桃色の髪に触れる。手の甲で頬を撫でると、その肌は同じ男だとは思えないほどふんわりとしたものだった。心地よい手触りと、スヤスヤと眠る安らかな寝顔に、引き込まれるように眠気を感じた幸村はその隣に寝転んだ。

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