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第2章 10

 翌日、仕事から帰ってきた幸村は、玄関の扉の前で深呼吸すると最近飼い始めた「ペット」の顔を思い浮かべ、勤務時間中に思いついたその名前をぽつりと呟く。それから、勢いよく扉を開いた。 「ナツ、ただいま!いい子にしてたかー?」 「……ナツ?」  いつものように廊下で幸村を待っていた夏野の頭を両手で撫でる。夏野は驚いた表情を浮かべ、しばらくの間抵抗もせずにされるがままだった。 「相変わらずナツの毛並みは柔らかいなぁ」 「……ち、ちょっと、幸村さん。どうしたの?キャラ違い過ぎんだろ。何、その呼び方」 「夏野じゃペットっぽくないだろ?俺、もし猫飼えたら毎日帰ってきた瞬間こうして撫で回したいなって思ってたんだよ。嫌がられてもな」 「な、何だよ、それ。ちょっと……だから触んなって」  廊下の奥に這って逃げようとする夏野に対して、幸村は後ろから抱き締めるように腕を絡める。 「やめろって……」 「待てよ。もうちょっと癒してよ。……ん?ナツ、ここいい匂いするな。何でだろ」 「えっ……ちょっと……」  そう言いながら幸村は夏野の首筋に鼻を押し当てた。ほのかに甘い香りが漂い、久しぶりに触れる人肌の温かさも相まって心地よい感覚に包まれる。 「ゆ、幸村さんっ……」 「何?ここ弱いの?」  うつ伏せの夏野に幸村が覆い被さるようにして首筋を嗅ぎ続ける。いつもマイペースな夏野が弱々しく声を震わせる様子が面白く、幸村はやめようとしなかった。 「ナツ、お前結構かわい――」  その言葉を言い終わる前に、突然、全身が痺れるような感覚がして、驚いた幸村は動きを止める。  ――え?  いつの間にか、体の向きを変えた夏野と目が合っていた。 「やめろよ」  その声が脳内に響き、体の動きだけでなく、まるで呼吸まで止めてしまったかのような息苦しさを感じる。

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