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第2章 11

「幸村さん、調子乗りすぎ」  夏野は口角を少し上げ、幸村の手首を掴むとゆっくり体を起こした。狭い廊下に逃げ場所はなく、幸村はすぐに追い詰められてキッチン下の収納に背中をぶつける。 「そんな風にされたら我慢できないんだけど……」  初めて会ったときに夏野が飲んでいたウイスキーを思い起こさせるような、キラキラと揺れる琥珀色の瞳。顔は優しく笑っているのに、その瞳だけは獲物を狙う獣のような鋭い光を放つ。 「嫌なら言って」  夏野の手は幸村の頬を撫で、その顔をぐっと自分の方へと向けさせた。甘い香りが一層強く鼻孔をくすぐる。その下では、必死に空気を取り込もうとする肺が、浅く速く何度も上下している。  ――嘘だろ? 「幸村さん、本当に嫌じゃないんだよな?いいよな……?答えて」  ――俺はそんなつもりじゃなかった。お前は俺のペットで、だから俺は……。  半開きのままカラカラに乾いてしまった口が勝手に動き、本音を吐こうとする。 「……いいよ」  夏野の顔が視界いっぱいに広がり、温かいものが唇に触れた。ゆっくりと、お互いの感触を確かめるような優しいキスから始まり、ふっと熱い眼差しが交錯したと思えば、情欲の赴くままに深く深く求め合う。  ――どうして、こんな……。ダメなのに、気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそう……。 「幸村さん」  名前を呼ぶ声が耳に掛かり、ゾクゾクとした快感が頭を支配する。幸村は状況を飲み込むことができないまま、のぼせたように真っ赤に顔を染め、潤んだ瞳で夏野のことを見上げていた。 「可愛い」  そう言うと夏野は再びキスを落とす。

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