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第2章 13

 狭い廊下で、幸村は夏野に抱き締められたままぼんやりと白い壁を見つめていた。射精しても尚乱れた呼吸が戻らない幸村に対して、夏野は心配そうに背中をさすり続けている。 「幸村さん、大丈夫?ゆっくり落ち着けばいいから……」 「……夏野」 「何?水とか欲しい?」  「……夏野ってゲイ?」 「え?」  ぽつりと漏れた疑問に、夏野ははたと動きを止める。今しがた行った行為に戸惑い、受け入れられずにいる幸村は、その答えを夏野に求めていた。 「……な、何で今そんなこと聞くんだよ」 「何でって……だって、さっき、お前が……」 「俺が?違う、今のは幸村さんがっ……!」  背中に当てられた夏野の手の震えは次第に激しくなる。ぎゅっとワイシャツを握ったのを最後に、その手は幸村の体から離れ、夏野は背を向けて立ち上がった。 「……ごめん、幸村さん。もうしないから」 「違う。待って、夏野。そういう意味じゃなくて……」  幸村は夏野に手を伸ばしたが、未だフラフラとして力の入らない体は上手く言うことを聞かず虚空を掴む。 「じゃあ、どういう意味?幸村さんは……違うんだろ」 「それは……」 「ゲイかどうかなんて……俺にはそんなことどうでもいい。でも、やっぱりNormalの人は……俺たちは無理だと思う」  Normal――それはDynamicsを持たない幸村を突き放すための言葉。 「俺は……男でDomだから。それだけ」  吐き捨てるように言う夏野に、幸村は掛けるべき言葉を見つけることができなかった。夏野にとって、性的指向を語る上でDynamicsが重要な要素であることを思い知る。  男同士もしくは女同士の恋愛が世間に受け入れられ始めたのは、Dynamicsが認知される少し前のことだったという。そのため、当時ようやく認められそうになっていた同性婚などはDynamics関連の動きと混同され、有耶無耶のまま立ち消えてしまった。DomとSubであれば一次性が同性でもパートナーとなれるが、それ以外の同性愛に対する世間の風当たりは強いままだ。  当然のようにNeutralの女性のみを恋愛対象として考えてきた幸村にとって、夏野の背中は随分と遠くにあるように感じられた。

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