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第3章 1

 あれから数日の間、2人は同じ空間にいてもほとんど会話することなく過ごしていた。  あの日、夏野はすぐに荷物をまとめて出て行こうとしたが、幸村はそれを強く引き止めた。1人になった夏野の生活を想像すると心配で仕方がなかったからだ。しかし、曖昧な謝罪の言葉は意味をなさず、夏野はペットではなくただの同居人として振る舞うようになった。食事も別で取っているらしく、幸村が買ってきたコンビニ弁当は冷蔵庫の中に入れられたまま翌日を迎える。  さらに、夏野は夜中まで外出するようになった。帰宅する幸村を迎え入れるのは、静寂に包まれた暗い部屋。廊下で不機嫌そうに幸村の帰りを待つ猫のような姿が、遠い過去のもののように感じられる。  ――どうしてこうなった。  寂しさは幸村の体に蓄積し、日毎に重みを増していく。  それでも、幸村は夏野に対する自分の気持ちに答えが出せずにいた。文句を言いながらも懐いてきて、気まぐれに甘え、手料理が食べたいと言えば作ってくれる。そんな夏野のことを可愛い奴だと思うし、放っておけない存在だと感じている。できればずっと一緒にいたいとすら思い始めていた。しかし、それを恋愛感情だとは言い切ることができずにいる。  なぜなら、夏野には幸村の知らない、Domとしての一面があるからだ。  他人を支配したいという欲求を持つDom――それをNeutralの自分が受け入れられるのかどうか、幸村には想像することすらできなかった。  DomとSubがお互いの欲求を解消するために行う行為はPlayと呼ばれ、それをしなければ彼らは体調を崩してしまうらしい。そして、それはまるで犬の躾のように「おすわり」というCommand(命令)から始まるという。  ――夏野もそんなことをやるのか?人間を相手に、おすわりとか伏せをさせるのが快感に繋がるなんて、そんなの俺には理解できない。

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